第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2023年
第28回入賞作品

10代の約束賞

父に伝えたいこと 宇髙 聖奈(18歳 高校生)

10年前の夏のある日。いつも通り家族5人揃って夕食を食べていた時、父がそれまでもっていた茶碗を食卓に置き中学1年生の姉小学5年生の兄と小学2年生の私の目を交互に見て
「来月からパパ3年間インドネシアっていう日本から4時間くらい離れた所にお仕事で行かないかんなったんよ」
と少し申し訳なさそうに言った。私はインドネシアがどこにあって3年間の長さもいまいちよくわからなかったが、不安そうに父を見つめる姉と兄の姿を見るとその話の重大さが少しわかった気がした。黙ってただ見つめるしかできなかった私たちに父はそれぞれと約
束を交わした。私と父の約束は
「毎日ご飯を沢山食べて元気に学校に通うこと!マラソン大会で1位を取ること!ママの言うことをちゃんと聞くこと!」
だった。真っ直ぐに私を見つめる父に私も深くうなずいて答えた。そして私も父に
「寂しくならんようにたまに手紙送ってね!」
と言って指切りをした。そして父は私の頭を優しくなでた。父の手は大きくて温かかった。
次の日から出発の準備は始まった。大きなスーツケースが3つ用意されていて、荷物は日に日に増えていった。スーツケースが満タンになるにつれ私の不安は大きくなっていった。そんな私に容赦なく日にちはどんどん過ぎ、父は
「行ってきます。」
といつものように行ってしまった。夜になっても父は帰って来ず、次の日もそのまた次の日も帰ってこなかった。家族をいつも明るくしてくれる太陽のような優しい笑顔の父。その存在はとても大きかった。落ち込んでいる私に兄が
「パパがおらん間は俺がパパやけんね!大丈夫よ」
と笑顔で優しく頭をなでてくれた。それが父と兄の約束だったらしい。まだ小学5年生だった兄だけど父の代わりはしっかりと務まっていた。
その2日後4枚のハガキが届いた。表には見たことのない国の街並み。しかし私はそれがインドネシアであることがすぐに分かった。私宛のハガキの裏側に
「好き嫌いせずモリモリ食べてママの言うこともちゃんと聞くんよ!」
と父の字で書いてあった。それからハガキは毎週届いた。インドネシアの写真と共に。父は私との約束を守っていた。だから私も母の言うことをきちんと聞き毎日元気に学校に通いマラソン大会で1位を取った。寂しいと思う日もあったが、毎週送られてくるハガキや約束を果たすために頑張る姉や兄、母の姿をみて頑張った。
それから3年の月日がたった。3年間待ちわびた日。大好きな父が帰ってくる日。私は走って家に帰った。ソファーにいつもの温かい笑顔で笑う父の姿が見えた瞬間私は父に飛びつき3年分のはぐをした。そして、嫌いだったトマトを食べられるようになったこと、マラソン大会で3年連続1位を取ったことを報告した。父は
「偉いね!大きくなったなあ!」と私をなでた。あの日と変わらない大きくて温かい手。10年たった今でも覚えている。父から送られてきた数百枚のハガキは今でも私の宝物。
春から私は一人暮らし。照れくさくて父に言えていないたくさんの感謝。
「パパは間違いなく世界一かっこいいよ!パパのおかげで成長できた!本当にありがとう。頑張るね!行ってきます。」