2023年
第28回入賞作品
10代の約束賞
子供騙し 渡邉 由菜(17歳 高校生)
私は、曾祖母がずっとつけていたゴールドの蛇の形をした指輪をもらった。この指輪をもらった瞬間から私は曾祖母との約束を結んだ。それは「悪いことをしない」という約束。
私がまだ八歳あたりの頃。曾祖母の家へ遊びに行った。普段は曾祖母の隣に姉が座るのだがその日は私が曾祖母の隣に座ることになった。まだ八歳という幼さもあり、じっと座っていることができず、曾祖母の髪や顔、手の甲のしわを触っていたずらをしていた。手を触っていて、曾祖母の中指にゴールドに光る指輪に目が止まった。抜こうとしても、手のしわが邪魔して抜けない。クルクルと指輪を回して抜こうとする私に曾祖母は
「この指輪は取れないよ。」
と言った。私は興味津々に
「なんで?お風呂の時も?寝る時も?お料理する時もはずさないの?。」
と質問攻めで聞いた。曾祖母の解答は
「はずせないよ。神社で約束をしてきたからね。」
と。その約束とは、両親や友人、周りの人を悲しませたり、困らせたり、苦しませるような悪いことをすると指輪の蛇が締まり、指がちぎれてしまう。しかし、よいことをした分だけ自分に返ってくる約束だ。話を聞いて
「そんなのうそだー。」
と言いながらそっと指輪を触ることをやめ、怯えたことを覚えている。今思えば、いたずら好きな私に対して曾祖母が考えた子供騙しの話だったが、当時の幼い私はしっかり信じていた。
年月が経ち、私が十四歳になった年、曾祖母が九十八歳で他界。老衰だった。この時私は初めて、病気やささいなケガや事故が原因で起こりうるのではなく、どんなに元気な人だって生きる力が尽きてしまうことを実感した日だった。親戚の人みんなが集まり、遺品の整理が始まった。小さな小銭入れから出てきたのは、イヤリングや指輪がたくさん入っていた。曾祖母が母の結婚式で付けていたイヤリングや切れると願いが叶うといわれるゾウの切れたヒゲが入った指輪など付けている姿を見たことがないものばかりだった。しかしたった一つだけ、ゴールドに輝く蛇の指輪だけ見覚えがあって、思い出があるものがあった。曾祖母が付けていた手と同じく右手の中指に付け、その指輪は私のものとなった。
当然、蛇の指輪は付け外すことなんて簡単にできるし、蛇が動いて指を締めるなんてことは一度もない。やはりあの話は曾祖母の作り話だった。けれど、私は指輪をもらったのと同時に「悪いことをしない」という約束を受け継ぎ、家族を守ると心に決めた。私は現在も学校にいる時間以外お風呂に入る時も寝る時も、料理する時も指輪を付けている。そんな日常の中で時々、指輪のサビが指に移っている時がある。最初は古いものだからそのうちサビはつかなくなると思っていたが、毎日サビがつくのではなく、勉強や部活動、アルバイトの時間に追われ、忙しさのあまり妹に強く当たってしまった日や家族・友人と喧嘩をしてしまった日、門限の時間を破ってしまった日、自転車の鍵をなくしてしまった日などやらかしてしまった日に指を見ると指輪のサビがついていることに気づく日が多かった。このサビは曾祖母が言っていた指輪の蛇による仕業のものか私には知る由もないが、一度冷静になり、自分の行動について考え直す時間をくれる気がする。
私にとって曾祖母からもらったゴールドの蛇の指輪は自分自身を正し、曾祖母と私を繋いでくれる唯一の宝物だ。今日も私の右手の中指にはゴールドの蛇の指輪が輝く。