2023年
第28回入賞作品
佳作
お父さん 松尾 暖悠(17歳 高校生)
私は自分への約束があります。それは父を「お父さん」と呼ぶことです。私は今の父とは血縁関係がなく、私が小学二年生のときに母と結婚をしました。私が小学五年生になったとき妹が産まれ、今では十歳以上年の離れた妹と弟が四人います。妹と弟たちは父のことを「パパ」と呼びます。初めはそのことになにも違和感を感じなかったけれど妹たちが父のことを「パパ」と呼ぶたびに「パパ」「お父さん」と呼ぶことができる人がいることに羨ましいという感情を抱くようになりました。実際、友人の前で、「お父さん」と呼ぶことは簡単です。しかし、本人の前で面と向かって「お父さん」と呼ぶのは躊躇があるのです。決して父が嫌いなわけではなく、ただ突然、父のことを「お父さん」と呼ぶ恥ずかしさと自分のなかでの戸惑いがあり、いつも呼べないのです。
私が父のことを「お父さん」と呼びたいと思ったことにはきっかけがあります。それは妹と弟たちから「どうしてパパのことをパパって言わないの?」と言われたことでした。私と十歳以上も年の離れた幼い妹たちからしたら、私の本当の父と妹と弟たちの父が違うことなんてわかるはずがありません。けれどその一言で妹たちのことが羨ましいと思う感情が大きくなりました。決して父や母から「お父さんと呼んでほしい」と言われることはありませんでした。けれど私にも心から「お父さん」と呼ぶことができる存在がほしいと思うようになりました。
私にとっての父は母と父が結婚前に心から自分の父となってほしいと思うことができた人です。家に帰ったら「今日はどんなことをしたの?」と優しい笑顔で話しかけてくれ、楽しそうに私の話を聞いてくれていました。今でも仕事で帰りが遅く休みの日しかほぼ顔を合わせることができないけれど、時間が合えば私の名前を呼んで笑顔で話しかけてくれます。そんな父は心配性で私の帰りが遅いと心配し、ときには怒ってくれます。怒られているときの私はどうしても父に対して反抗をしてしまうけれど、そのたびに私のことを娘として心配してくれていることを実感してうれしくなります。だから私はそんな父だからこそ父の前で「お父さん」と呼ぶことができるようになりたいと思ったのです。今の私にはまだ少し恥ずかしさがあり、すぐには自分との約束を果たせそうにはないけれど私がもう少し大人になったとき父の前でも「お父さん」と呼びたいと思っています。
そして、もう一つ私には約束したいことがあります。それは、自分の周りの母や父がいない人のことを決してかわいそうだと思わないでほしいということです。もちろん、私も本当の父がいないことに悲しくなったり、どんな人だろうかと考えたりすることはあります。けれど、自分のことをかわいそうだと思ったことはないし、今の自分のことを幸せだと思うことができています。私のような考え方の人が多いというわけではないけれど少なくとも周りの人からかわいそうだと言われることはより自分の心が悲しくなるのです。そんなことになる人が少しでも減るように私はこのことをこれを読んでいる人と約束をしたいです。