2022年
第27回入賞作品
10代の約束賞
母との最後の約束 横山 裕士(16歳 高校生)
「夜ご飯なんかいらない。」と私は祖母に言った。なぜなら祖母の作る料理は古くさいものだと思っていたからだ。そんな言葉を言ってしまった私に母は「人が一生懸命つくってくれたものにそんな言い方ないでしょうが」と私の耳を強く引っぱりながら怒鳴った。私は食卓を抜け出して自分の部屋で布団を頭から被って泣いた。しばらくすると母が私の部屋に入ってきて私から布団を引っペ返して私に夜ご飯を食べるように言って母は自分の部屋に戻って寝てしまった。私は祖母に謝って、祖母と二人で夜ご飯を食べた。その時に祖母は私にこんなことを言ってきた。
「お母さんはね、あんたのためを思っていろんなことに対して怒ってくれてるんだよ。自分はいつまで生きれるか分からないから、今はまだ生きているうちに自分が教えてあげられることくらいはしていきたいんだ。」と祖母は私に教えてくれた。そして私はその日、母とは会うことなく一日を終えた。
翌日、母は朝から仕事があったため、私と会うことはなかった。私は朝食を食べて学校へ向かった。その日は学校の授業で大切な人へ手紙を書くことになった。私は昨晩あった出来事を思い出して、母へ手紙を書くことに決めた。手紙を書きながら私は母がどんな人か思い浮かべていた。
私の母は私がまだ幼稚園に通っていた頃に「乳がん」と診断された。そしてがんの進行具合を示すステージはⅣであった。母はこの現実に苦しめられて何度も自殺をしようとしていたと言う。飛び降りや電車への飛び込みなど考えていたが、母は人に迷惑をかけて死ぬのは嫌だと思って自殺はしなかったそうだ。また、病気と分かっても、母は働き続けていた。父と母は、母のがんが分かって離婚した。母は私と姉をつれて祖父母のもとへ帰って一緒に暮らした。私は祖母から「お母さんはね、あなたたちが大学に行くときに使うお金や、これからの生活費をかせぐために毎日毎日働いているんだよ」と教えてくれた。私はそんなことを思いだして母はとってもやさしくて本当に私と姉のことを愛してくれているのだと感じた。そんなやさしくて私たちのことをいつも想ってくれる母に私は昨晩のことを手紙に書いて謝った。そして、もう二度と人がつくってくれた料理や物などに対して、いらないなどと絶対に言わないと手紙に書いた。
その日の体育で運動会の練習中に私と姉は先生に呼ばれた、話を聞くと突然職場で母が倒れたそうだった。私と姉は祖父母と車で病院へ向かった。病室に入ると母はベットで眠っていた。私は授業で書いた手紙を母の枕元に置いて母の目覚めを待った。しかし母は翌日の早朝に息を引き取ってしまった。私は前々日の夜になんてつまらないことで母と喧嘩してしまったんだと自分を恨んだ。しっかりと謝ることもできず私が母と最後に話したのは母との喧嘩になってしまった。母の枕元には私の置いた手紙がのりがついたまま残っていた。私は母と最後にお別れをする前に手紙の内容を音読した。
「私はもう二度と人がつくってくれた料理や物に対していらないなどと絶対に言わない」と私は母と最後に約束をした。そんな約束をしてもう七年ほどが経とうとしている。私はあの日以来、祖母の料理を毎日食べて元気に生きることができている。これからもこの約束は一生守り続けていきたいと思っている。