2021年
第26回入賞作品
10代の約束賞
自分との約束 吉田 弥生(17歳 高校生)
私は来年大学に進学する。大学では法律学を学び、将来は知的財産権を専門とする弁護士となりたい。このように私が志したのは、在学中に経験した事件が契機だ。
それは中学三年時、所属する演劇部の文化祭公演練習で起きた。演劇部の文化祭公演は、例年演出担当者がオリジナル作品を執筆する。しかし、その年の公演は映画化された既存作品を公演用に編集する試みをした。キャストの選出、イメージ音楽の制作や告知等の準備は順調に進んだ。公演本番を一か月後に控えたある日、部員の一人が、著作者への著作権の利用許諾申請を提案した。
必要だろうか、というのが私含め部員大多数の意見だった。「著作権」という言葉は勿論知っている。著作物の利用には著作者の許諾が必要だ。だが今回は、高校の校内限定の無料公演だ。営利目的ではないのだから、わざわざ許可申請は不要だろう、と思っていた。しかし特段反対する理由もない上、仮に申請しても許可が取れると見込んだ。ところが予想に反し、結果は却下であった。
なぜ許諾が下りなかったのか。著作権とその却下について法的な理由、根拠を知るため、著作権情報センターや全国高等学校演劇協議会らに相談した。そこで学んだ事実は、著作者がダメといえば、それが無料だろうと校内公演だろうとダメなものはダメだということだ。結果、私たちは公演二週間前に演目を変更する事態となった。公演に向けての全ての努力が無駄となり、部員一同涙が枯れるほど泣いた。この時、私は自分自身に約束した。二度と同じ失敗はしない、同じ悔しさを後輩たちにはさせない、と。
翌年、私は演劇部部長に就任した。就任後最初に着手したのが、著作権についての勉強会だ。まずは自分自身が正しく理解するため、著作権を専門とする弁護士の方にお話を伺い、全国高等学校演劇協議会の協力を得て著作権交渉について資料にまとめた。更に知識を深めるため、国家資格の知的財産技能検定三級を受験し、実技試験に合格した。
著作権の専門知識を持って、改めて日常生活を見渡すと、周囲の景色が違って見えた。注意深く意識をもって観察すると、私たちの周りには著作権抵触の可能性がある事案が多々ある状況に気づいた。特に懸念を持ったのが、ソーシャル・ネットワーキング・サービスにおける、若者のデジタルコンテンツへの著作権侵害だ。具体的には、SNSへの写真や動画の無断掲載や転用、楽曲の無断利用など、多くが著作権侵害と意識せず利用している状況だ。おそらく彼らも著作権という言葉は知っているだろう。著作権の言葉自体は有名だが、果たしてその内容まで正しく理解できている若者がどれほどいるだろう。SNSへの無断掲載や転用は故意ではなく、著作権への知識がない故の過失だろう。しかし、過失であっても違法は違法だ。仮に著作者から訴えられれば、若者であっても罪に問われる。知らなかった、では済まされないのが法律の世界だ。
SNSの普及だけでなく、ICT教育の普及など、技術の急速な発展により、デジタルコンテンツは非常に身近な存在となった。気軽に利用できるメリットがある一方、その気軽さの為に、著作権が意識されづらいのが課題だ。そしてデジタル技術やネットワーキングサービスが日進月歩で進化する一方、著作権を始めとしたデジタルコンテンツに関する法律や法教育の遅れが否めない。これらの状況を踏まえ、私は自分に約束をした。著作権を始めとした知的財産を安心・安全に使えるよう、将来は知的財産権を専門とした弁護士となり、権利保有者、サービス提供者と利用者をつなぐ橋渡しとなる。特に若者への啓発は重要課題と考える。皆が著作者の権利を守り、利用者が安心安全に作品を楽しむことは、著作者にとって更なる作品の創作に繋がる。結果として利用者も、更に良い作品に出合え、文化や技術の振興に繋がると信じる。