2021年
第26回入賞作品
10代の約束賞
「思い出の貯金箱」 福田 毬七(17歳 高校生)
私は昔からずっと大切にしている貯金箱を持っている。ある日、おじいちゃんがプレゼントしてくれた物だ。正五角形の面が組み立ててあり、言わばサッカーボールのような形である。カラフルな色が散らばったその見た目に、私は一目で惹きつけられたのを覚えている。
おじいちゃんは手本として、私が手に持っていた貯金箱に小銭を入れてくれた。手に響く「チャリン」という音は、幼い私の心をくすぐった。そして私に、
「これがお金でいっぱいになるまで、絶対に開けてはダメだよ。」
と言った。これはおじいちゃんと私の、最後の約束となった。
まだ幼稚園生だった私は、持っているお金などほとんどなかった。それでも早く貯金箱をいっぱいにしたくて、家のお手伝いなどで貰ったお小遣いを少しずつ入れていった。貯金箱を振るとシャカシャカと音を鳴らす。まるでお金が踊っているように感じて面白かった。おじいちゃんと会う時、貯金箱を持って
いっては、どのくらい貯まったのか自慢していた。
そんな日常も一変、おじいちゃんが亡くなった。貯金箱を貰ってから一年も経っていない内に。幼いなりにおじいちゃんの死を実感したその時、私は何も考えられなくなった。
貯金箱を見るとおじいちゃんを思い出して悲しくなってしまう。私はその日からしばらく、貯金箱をタンスの奥に隠してしまった。
今思い返すと、おじいちゃんに本当に申し訳ないことをしたなと思っている。
それから数年が経った。すっかり小学生も様になった頃、ふと貯金箱の存在を思い出した。いや正確には忘れてしまった訳では無い。ただ、中々取り出そうとする気持ちになれなかったのだ。やはり時が経てば気持ちも変わるようで、貯金箱を見るだけで悲しくなっていたあの気持ちは、あの日約束したことを早く達成したい気持ちでいっぱいになった。
久々に見たそれは、相変わらず愛らしい色をしていて、あの日から全く重さが変わっていない。小学生になりお小遣いも増えたことで、前は一円玉ばかり入れていたのが、百円玉を入れることも多くなっていた。
貯金をする日々は中学生、高校生になって
も、もちろん続いていた。そして去年の冬、
あの約束をしてから十一年が経った時、遂に小銭が入らないほど満杯になった。貯金箱を振っても、もうシャカシャカと音はならない。ドシッと重くなったのを感じ、私は満足感でいっぱいになった。
私はさっそく開けてみることにした。頑丈に組み立てているのか、手ではビクともしない。少し工具を挟んで力づくで開けてしまった。勢いよく散らばってしまった小銭の光景に笑い、かき集めていると、小さく折りたたまれている紙を見つけた。その紙は色が褪せていて、少しヨレヨレになっていた。自分が入れたのかと不思議に思いながら開いてみた。そうすると、おじいちゃんの字が綴られていることに気がついた。最初から入っていたのだろうか。そう思いながら読むと、
「この手紙を読んでいるということは、この貯金箱がいっぱいになったのだろう。私は約束を守ってくれたことがとても嬉しいよ。」
と書いてあった。私が最後まで約束を守ると信じてくれたのか。幾ら貯まったとかよりも、その言葉が嬉しくてたまらなかった。
手紙を読んだあの日からすでに一年が経った。そんな今でもまだ貯金を続けている。すっかり癖になってしまったのだ。あの後開けた貯金箱をしっかり組み立て直した。手紙を何回も何回も読んで、貯金箱にまた入れた。手紙の内容を忘れる頃には、きっとまた満杯になっているだろう。おじいちゃんとの約束は、これからも続いていく。