第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2021年
第26回入賞作品

10代の約束賞

後悔 齋藤 拓真(16歳 高校生)

 二〇二一年の四月、僕は高校生になった。
僕はその高校の附属中学校の出身で、新たに
通うはずの高校も、すでに見慣れた風景となってしまった。しかし中学と高校では自由度が段違いで、僕は日々新鮮味を感じながら学校に通っていた。
 その中でも最も中学と違っていたのは、お昼休みだった。高校では中学と違って、みんながそれぞれのご飯を、思い思いのメンバーで、思い思いの場所で食べることができた。
僕はいつも母が作ってくれるお弁当を食べて
いたが、本当は学食に憧れていた。そして行ってみると、実に高校生らしい雰囲気に満ちていた。僕は初めて学食でご飯を買った。母が作ってくれたお弁当を一口も食べないのも、なんだか悪い気がしたので、学食のものを食べ終えたら、とりあえず食べられるだけお弁当を食べようとした。悪いとは思いながらも、残ったお弁当は、お弁当箱を洗う時に見つからないようにして、こっそり捨てた。僕はその日から頻繁に友達と学食に通うようになった。
 それからしばらくした日、うっかり残していたお弁当が見つかってしまった。咄嗟に腹痛だったとごまかしたが、怒られると覚悟していた。しかし母の反応は意外にも、「それはしょうがないね、明日からは食べるんだよ。」それだけだった。僕はほっとした。きっと母に残ったお弁当を渡しても、何も言われないだろうと思った。次の日から、僕は残ったお弁当をそのまま母に渡すようになった。「今日もお腹痛くて。」「今日は部活のミーティングで忙しくって。」嘘をついた。残す量は日に日に増えた。それでも母は何も言わなかった。
 二学期が始まってすぐの九月中旬、僕はまた残ったお弁当と嘘を母に渡した。どうせ何も言われないと思っていた。ところが「いい加減にして!」母の叫び声が響いた。「毎日毎日、全然食べない。つらいんだよ、捨てるの。いつもお弁当は自分で洗ってって言ってるのもそう。自分で捨てて欲しいんだよ!」目が潤んでいた。言葉が出なかった。僕が母に捨てさせていたものは、他ならぬ母の愛情そのものだった。せっかく作ったお弁当を「捨ててほしい」なんていうのがどれほど悲しいことか。僕は泣いた。大粒の涙で泣いて約束をした。「明日から、絶対に残さない。約束する。」母も泣いていた。母は何も言わずに洗い物の作業に戻ってしまった。
 翌朝、母はいつものようにお弁当を持たせてくれた。ずっしりと重く感じた。その日の昼休み、僕は一人でご飯を食べた。お弁当箱には、固くなったご飯と、玉ねぎと豚肉の炒めもの、玉子焼きが入っていた。僕は玉子焼きを口に入れた。美味しかった。本当に、学食より何十倍も美味しかった。僕は涙が出そうになって、ご飯をかきこんだ。あっという間に僕はお弁当を食べ切った。その日の夜、僕は母に、空のお弁当を見せて、「今日からは自分で洗うよ。」と宣言した。そうして洗い物をしていると、母はにっこりして、「明日は何がいい?」と聞いてくれた。「玉子焼き入れて欲しい!」僕は晴れ晴れした気持ちで答えた。