2021年
第26回入賞作品
10代の約束賞
夢は今、この時から 植木 理紗(17歳 高校生)
「夢は今、この時から。」―これは、私が、中学校を卒業するときに担任の先生からいただいた言葉だ。この言葉のおかげで、今の私がある。
中学三年生の春。まだ肌寒い体育館での担任発表。それが先生との出会いだった。落ち着いた声、背筋が伸び、堂々としているその姿は、まさに「大人の女性」という印象だった。教室へ戻るとクラス全員の机に小さな封筒が。中を開けると一枚のメッセージカードが入っていた。「一年間、一緒に努力できることを楽しみにしています。」と綺麗な字で書いてあり、心がなんだか温かくなったのを今でも覚えている。
先生は、家庭科の教科担当で、陸上部の顧問をしていた。つまり、勉強も料理も運動も得意分野だ。おまけに書道に精通している。全く非の打ち所がなかった。いつも完璧で、私たち生徒のことを第一に考えてくれる、一言でいえば“最高”の先生だった。
私は先生に憧れを抱いていた。中学三年生という人生の大きな選択をするために悩み、葛藤する時期に「完璧」な先生は輝いて見えて、いつしか自分もこんな風になりたい。と思うようになった。
その気持ちが一段と大きくなったのは、初夏、体育祭の準備をするために学校に残ったときだった。静かな教室に先生と二人だけ。エアコンの音がいつもより大きく聞こえるような沈黙に耐えられず、私は口を開いた。
「先生って何で先生になろうと思ったのですか?」
どうしてこんな質問をしたのか、自分でも理由がわからない。迷惑だったかなと心配になる自分に先生は、
「人に教える、人を育てるってとても難しい事だけど、大変より感動が上回る事が多いんだ。先生がいてくれてよかったと思ってもらえるように、先生も頑張るね。」
と、笑顔で言った。
今考えてみると、先生は質問に答えを出してはいない。でも、それが当時、進路や将来に不安をもっていた私に大きく響いた。何より先生のあの笑顔が、とても輝かしかった。私も教師という立場で、感動を味わいたい。必要とされる人になりたい。そう思うようになった。
夏休みの進路相談のときに自分の夢を先生に語った。先生にずっと憧れていたこと、悩んでいたときにあの言葉のおかげで、自分も教師を目指したいと思うようになったこと、全部話した。すると、先生は涙を流して「全力で応援、サポートします。一緒に頑張ろう」と言ってくれた。それからというもの自分で志望校に向けて必死に勉強した。夏休み前までの自分では受からないと思っていたような志望校に学力が追いついてきたとき、先生は私を「あと一ふん張り!」と励ましてくれた。
一月、私が合格通知を持って登校した朝、先生は自分のことのように喜んでくれた。私もとても嬉しかったし、先生に感謝の気持ちが大きかった。
そして別れの三月、最後の登校をすると、全員の机の上に小さな封筒が。中を開けるとそこにはやはり、メッセージカードが入っていた。
「いつか、一緒に働きましょう。また学校という場で会えるのを楽しみにしています。
夢は今、この時から。」
この文を読んだとき、自然と涙が出た。「いつか、一緒に働く」という先生との約束。私は絶対に叶えてみせると心に誓った。
先生、お元気ですか。私は今、教師になるために、先生との約束を果たすために、精一杯頑張っています。先生のような立派な教師になって再会すると約束します。だから、もう少しだけ待っててくださいね。