第26回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2021年
第26回入賞作品

10代の約束賞

妹との「おやくそく」 岩﨑 心優(14歳 中学生)

 「おしょとあしょびーいく!!(外に遊びに行きたい)」と妹が泣きながら私のスカートを引っぱる。仕方がないので適当にイヤリングを手にとり、考え事をしながら鏡越しにイヤリングを見て、ふと蘇ったのは二年前の出来事である。
 私が十二歳のころ、母の妊娠が判明した。その頃弟は十歳。まさか自分たちに一回り下の兄弟ができるなんて思ってもみなかった。兄弟が増えるということはもちろん嬉しかったが、当時の私からしたら、父や母が育児に追われ、私達の相手をしてくれなくなり、いずれ邪魔者扱いされてしまうかもしれないということが怖かった。しかし、妊娠中の母にそんな事を言えるはずもなく、一人で泣いた。泣いているところは母に見られてしまったけど。笑
 月日が経ち、予定日が近づいてきたある日母が笑顔で言った。
「十一月一日に生まれてきてほしいなぁー」
実はそのとき、私達家族は父の転勤によりベトナムに住んでいた。私達が住んでいた場所は案外都会だったので、40階建てのマンションの、11階の端っこで暮らしていた。部屋番号は1101。ほんとうにそんなことがおきたら面白いのになと、おどけてみせる。
 結局ハロウィンがおわる頃まで何の変哲もない日々を送っていた。そして運命の日。母は今日産むぞ!と朝から意気込んでいたが、静かに時計の針が動くばかりで、特に変化はなかった。もうそろそろねようか、という頃だった。母が陣痛を訴えたので、タクシーを呼び、病院へ向かった。家からタクシーで約四十分ほどの距離だが、夜遅い時間帯だったためか、比較的すいていたのが幸いだった。病院のロビーが見え始めたとき、母はタクシーの中で破水した。病院につくと母はすぐさま車椅子に乗せられ、苦しそうに座っていた。いや、もはや立っていた。辛そうにする母を見ていると心配で、心配で、仕方がなかった。エレベーターにのり分娩室へ急ぐ。私と弟は部屋に入ってはいけないとのことだったので、仕方なく近くのソファに座った。母から、きっと長丁場になると聞かされていたので、まずはトッポを頬張って、その後はアメを舐めた。次は何を食べようか…なんて考えていたときだった。分娩室のあたりから赤ちゃんの泣き声がかすかに聞こえた。空耳かと思ったが、しばらくすると赤ちゃんと母が一緒にベッドにねころんで出てきた。正直、ものすごく驚いた。アメを舐めおわる速さで赤ちゃんが生まれてきたのだから。とりあえずその日は、夜遅かったので母と赤ちゃん以外の三人で家に帰った。
 次の日、赤ちゃんに会いに行くというので、私はなにかおしゃれをしていこうと思った。だからお気に入りのイヤリングをつけた。シルバーのハートのイヤリング。赤ちゃんと初めてご対面したときにつけていたイヤリング。妹は、まだ何も見えていなかっただろうし、覚えてもいないだろう。だが、私はそのイヤリングをつけるたびにあの日の出来事を思い出す。最近二歳になった妹は、イヤリングに興味津々だ。この話をするにはまだ早いと思ったので、私は妹と「おやくそく」をしている。 「私が二十歳になったら、このイヤリングをあげるね!」
本当に意味を理解しているのかは分からないが、
「ほんまに?やったー!」
と両手をあげて喜んでくれた。このイヤリングは、実際それほど高いものでもなく、ブランド物でもない。だからそうやって自信をもって渡せるような物ではないけれど、私にとって、妹が生まれたという最高の思い出がつまった大切なイヤリングだ。どんなに高いものよりもずっとずーーっと価値のあるものだと思っている。そして、妹がこのイヤリングをつける日を楽しみに待ち望んでいる。