第26回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2021年
第26回入賞作品

佳作

私と帯と姉 杉山 穂香(17歳 高校生)

 私と姉は六歳差で、当時私は小学生、姉は高校生だった。なんだかんだ私に甘い姉が唯一取り付けた約束。「本の帯を取らないで。」
 私は本の帯が嫌いだ。新書を買うと必ず付いてくるアレ。本は好きだ。小さい頃は本気で友達だった。でもあのくっつき虫は別。存在価値が分からない。ロクなことも書いてないクセに邪魔になる。本棚に入れると折れる。いつも一番にへこたれるのはアイツだ。あの軟弱野郎。私にとっては親友がかまちょに捕まった気分だ。ボッチになるのが嫌で、常に一緒に行動したり休み時間の度に呼び出すヤツ。そんな訳で、小学生の私はどうしてもアイツを好きになれなかった。でも、姉は違った。
 姉はアイツのことが好きだった。姉が嫌いなクラスメイトと付き合い始めたみたいな気持ちになった。私の本好きは姉から来たものだ。姉はかなりの本好きで、私は小さい頃から当たり前に姉の本棚を漁って読んでいた。小さい時はかわいがってくれた方で、私は姉の後ろをトコトコと付いていくような子だった。だが、この日裏切られた。
 雑で、中身が大事で、装飾とかはどうでもいい私。コレクター気質で、包装や箱が好きな姉。姉は本の帯もコレクションしていた。正直引いた。私は新書を買った瞬間カバーのビリビリと中に挟まっている広告と三点セットでまとめてゴミ箱行きなのに。そこで、後にも先にもない最大の姉妹ゲンカが勃発。本の帯を捨てたい私VSコレクションしたいしせめて自分の本の帯は丁寧に扱って欲しい姉との戦いだった。くだらな。小学生の私はこのケンカで価値観が違う者同士は完全には分かり合えず、互いに歩み寄るしかないことを学んだ。原因は本の帯だけど。
 長い戦いの末、やっと落ち着いた姉が提案した約束。「姉所有の本の帯は取らない。」これは、私が読むときに一旦帯を外すと、その時は戻すつもりでも雑で忘れっぽく、結局床に散乱したままになってしまうからだ。今考えると酷い扱いで、姉はよく我慢してくれたと思う。だが小学生の私は細かいことを言われるのがとにかく嫌いだった。その時は一方的に押し付けられたという認識だった。それからきちんと仲直り出来ないまま、姉は大学進学で上京してしまった。
 一々とやかく言われることなく本を読める状況になった私だったが、約束は破らないようにしていた。と言うか、引っかからないようにしていた。当時の私は何事も適当な性格を気にしていて、そのせいで姉を怒らせてしまったことが地味にトラウマになっていたからだ。それを認めたくないために破らないようにはしていたが、意固地になっていたので素直に守るのも癪だった。そこで抜け道として、帯が付いている本は一切読まなかった。どれだけタイトルが気になっても帯があれば手を付けない。シリーズ中一巻だけ帯が付いていれば、わざわざその巻だけを自分で買ったりもした。子供らしいアホだった。
 成長してその約束をほぼ忘れた頃、姉がそういえば、と約束の話を掘り返してきた。その頃にはもう笑い話で、その時やっと私は姉にきちんと謝ることが出来た。今思えば全てがバカらしい話で、姉も私もガキだった。だからその分二人の間で成長が感じられる約束だ。私はあのケンカ以降どことなく姉に苦手意識があったけれど、それも今では消化することが出来た。ただし帯、お前は別だ。やっぱり嫌いなモノは嫌いなので、アイツだけは許せない。