第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2019年
第24回入賞作品

プロミスお客様サービスプラザ賞

見えないおじいちゃんとの約束 小山田 季未(15歳 高校生)

 ある日以降、おじいちゃんにだっこしてもらえることはなかった。その頃私は二歳。おじいちゃんと過ごした日々の記憶はほとんどないが、おじいちゃんが私の前に現れなくなって、毎日仏壇の前で目には見えないおじいちゃんとお話して、心に決めたことは今でも忘れない。
 私は、小さい頃からずっと両親が働いており、祖父と祖母に育てられた。二人はいつでも笑顔が絶えなかった。そんな二人に毎日ミルクをもらい、だっこしてもらい私は幸せだった。ある日、おばちゃんにおんぶされ二階へ。そこには、耳、鼻、口の凹凸がない写真となったおじいちゃんがいた。二歳でもなにが起きたのかなんとなくは分かる。それから毎日仏壇の前に行って返事をしないおじいちゃんに私は話しかけ続けた。
 それから七年が経った。私は四歳から習い事で水泳を始め、初めて大会に出場した。緊張して目がうるうるしていたのを覚えている。なんとかスタートし、泳ぎ切った。結果を見ると、二十五人中二十三番。上には同級生が多くいた。悔しくて涙がなくなるのではないかというほど泣いた。こんなレースを何度も繰りかえし、友達の保護者達からつけられたあだ名は「泣きむしきみちゃん」だった。強くて優しい水泳選手を目指している私にとってそのあだ名は嫌でたまらなかった。その日の夜はおばあちゃんとおじいちゃんの待つ仏壇に行った。
 「おじいちゃん。どうしたら強くなれるかな。」私は、そう話しかけた。すると、横にいたおばあちゃんが、「笑顔でいることが大切だと思うよ。つらい時も笑顔で乗り越えることが強さだと思う。おじいちゃんもそう思っていると思うし、小さい頃のようなきみちゃんの笑顔みたいと思うな。」と、仏壇を見ながら言った。私はその言葉を聞いた直後、仏壇を見つめ、手を合わせ、「どんな時も笑顔で乗り越え、強くなります。空の上からお見守りください。」とおじいちゃんと約束した。
 約束して七年経った今。私は全国で戦える選手となった。ライバルに勝っても、負けても、涙が出ても笑顔で励まし合うことができる選手となった。日常でも「笑顔」を意識しながら生活している。すると、水泳関係の保護者や他チームのコーチ達から、「きみちゃんの笑顔みると元気でるね。」、「今日はきみちゃんに会えてないな。」、「ニコニコきみちゃん」と言う声が聞こえるようになった。私は、おじいちゃんとの約束を守ることができていると思い、嬉しくてたまらなかった。
 「おじいちゃん、今の私はどうですか。今から頑張るからみててね。」と、「ニコニコきみちゃん」と呼ばれるようになってから、レースで、スタート台に立つ前、両手で顔をかくし、ニコッとして、そうおじいちゃんに心の中で話しかける。これが私のレース前のルーティンだ。こうすると気持ちが落ちつくのだ。
 私は今日も、空の上にいるおじいちゃんに話しかける。「おじいちゃん元気ですか。最近の私はどうですか。一度でいいから、たくましく強くなった自分を目の前で見てほしいです。また会いたいです。今日もありがとうございます。これからも空の上から私の成長と笑顔みててね。」と