2019年
第24回入賞作品
グローバル賞
ジッポーライター ジャン ヤンジェ(22歳 学生)
タバコを全然吸わない私の本棚の上にはいぶし銀のジッポーライターがある。オイルが残っていないので、火はつかず、音だけがかちっとするこのライターは、大学で出会った同じ留学生の後輩のだ。
愛煙家の後輩はいつも銀色のジッポーライターを持ち歩いていた。タバコを「唯一の楽しみ」と言って、キャンパスの中でも暇があれば喫煙区域に行ったりした。「健康のために喫煙を少し減らせば?」という私の助言に、「飢え死にしそうになってもタバコを吸う」と冗談交じりに言ったほどだった。 彼のタバコ愛は家にまで続き、拾ってきた植木鉢を土の代わりにタバコの灰でいっぱいにするほどだった。私たちはお互いに頼る存在、親しい友達だった。共に時間を過ごす中で、彼がいつもジッポーライターでタバコに火をつけるのをよく目にしていた。後輩にとっては、ジッポーライターは唯一の「ファッション」であり、「プライド」だった。
同じ留学生である私は彼が入学してから2年間見ていたが、彼の喫煙量は日本で大学生活を始めてから増えたようだった。あまり裕福じゃなかった彼は、貧しい留学生活を続けた。自立的な生活を追い求めていた彼は、両親の助けをなるべく受けず、アルバイトと節約生活で金銭的に苦しい状況を乗り越えた。一時は「ジャガタマ」という計画を立て、一週間をじゃがいもと卵で持ちこたえたり、食パンだけで凌いだりした。さらに、生真面目なため、他人から助けられることも非常に嫌がった。ランチをおごってあげようとしても断り、その代わりにポケットからじゃらじゃらコインを出して示して、「これで2週間持ち堪えますよ」とふざけたりもした。
このようなライフスタイルは後輩を非常に現実的な人にした。留学生活を続ける間に、不要な支出は減り、人間関係も簡素化し、自宅の外に出ることも減った。 バス代を節約するように5個分のバス停の距離を歩いてきたり、水が止められて学校でシャワーを浴びたりもした。「金銭的に苦しい」と冗談を言う後輩は、学業成就は自分の道ではないと言って、早期就職を切望した。「もう少し自信を持ってもいい」と言っても、後輩は「成功は自分とは程遠い」として、理想よりは現実に満足したがった。そんな後輩を私は残念に思っていた。
学期が終わるころ後輩から連絡が来た。最後にお酒を飲もうということだった。特に「最後の」と強調し、夜遅く会った後輩は、普段と違って高いお酒と食べ物を頼み言った。
「さっき休学を申し込んできました」
我々の母国である韓国には兵役義務がある、ほとんどの者は大抵就職前にそれを終える。私は卒業後に行こうと思っていたが、後輩は3年生に進級する前に行くことにしたのだった。後輩は愉快な声で、
「先輩は僕たちがまた会えると本当に思いますか? 」と尋ねた。
実際は入れ違いになるので、会える可能性は低い。私は答えずに笑った。
「これからも連絡が取り続けられればいいんですけど」
後輩は冗談まじりの笑顔で言った。
「最後」だった出会いから帰ろうとした頃、後輩が慌てて残ったタバコを吸い込み、熱が微かに残ったジッポーライターを私の手に握らせた。
「これ、先輩が持っていて、また会った時返してください」
後輩に似合わず現実的ではない約束だった。私は果してその約束を守ることができるだろうか?余計な疑念が生じた。だけと、彼の約束はたとえ守らなくても意味があるのだ。後輩との2年間の絆を感じるには手の中の温もりで十分だ。