2018年
第23回入賞作品
グローバル賞
それでも、日本で働く。 ハリー・セイザー(24歳 大学生)
昨年、日本は外国人労働者の受け入れ拡大に踏み切った。12月に出入国管理法の改正案が議会で通って、外国人労働者、正式な呼び方でいうと技能実習生は5年間に及び日本で働けるようになった。これに対して日本国内では意見が分かれているが、私の知り合いの実習生の間では大歓迎の声があがっている。最近、テレビ番組では技能実習生に対する虐待がよく取り上げられているようになった。劣悪な労働環境で、実習生は低賃金で働かされている。それどころか、数ヶ月が経っても賃金が支払われないケースもある。そんな中、実習生はより労働環境の良い企業に転職することを希望するが、そのような行為は技能実習制度の法律上では許されない。その結果、会社から逃げて、不法滞在に走る実習生は少なくない。このようなニュースが報道されると、「自分の国に帰れば良いだろう」と他人事のようなコメントをよく耳にする。実習生はなぜ、それでも日本で働きたいのか。
答えとして最もはっきりと言えるのは、彼らは「母国にいるよりも日本に働きに行くほうが確実に家族を養うことができる」と考えているからであろう。日本での仕事は日本人よりも低く支払われているとはいえ、その所得は母国での所得より3倍以上もある。それに、日本の会社で働きスキルを磨くことで、将来的に母国に戻ると周りに評価され、良い仕事につながるという希望が微かにあるはずだ。日本に来るために、彼らは何らかの犠牲を払った。家族を残し、実習生になるために膨大な借金をせざるを得ない、日本に来たからには、そう簡単に母国に帰るわけにはいかないのであろう。そう、彼らは家族に、自分に対して、日本で働くという約束を交わした。
私に、彼らの強い思いはわかる。実際に私は、日本への留学を決心した時に彼らと同じように、「日本では必ず夢を実現することができる」と考えた。日本に来てからもしばらく、その思いが強かった。日本では奨学金がなくても、アルバイトをしながら真面目に勉強すれば、大学や専門学校に進学できないことはないからだ。しかし、3年生から就職活動を始めてから、外国人の活躍できるフィールドは限られていると感じた。もちろん、留学生を歓迎する企業が多くあった。だが、今の日本の企業では大抵、留学生あるいは技能実習生にそれほど期待をしていないという印象がある。就職活動で会社を訪問する時は、社員だけではなく日本人学生からも困惑を表す表情をよく見ていた。もっとも、日本では仕事に対する価値観が異なる。プライベートよりも会社での残業を優先する風潮があり、他のアジアの国での価値観からしても正反対だ。日本企業に入るには、日本人と同じような知識と常識が必要で、日本で働くには言語の壁がある。出世するにも上司に気に入られるようなスキルも身につける必要がある。
それでも、私は日本で働く。
日本での仕事が辛くても、私は日本で働く。
無論、日本で働くことで母国に残している家族を養うことができる。しかし、それ以上の理由がある。私には大きな夢がある。これまで私は、日本は夢の国だと信じてきた。このような夢の国で学んだ知識やスキルを活かし、私は夢に向けて努力しつつ、日本社会に認められたいという願望がある。そして、自分の夢を実現するには様々な経験や知識を身につけなければならない。日本の企業という未知の世界に入れば、新たな知識や考え方が得られるかもしれない。日本に来なければ、私の視野やものごとのとらえ方は今のように広がることはなかったのであろう。日本で苦労したからこそ、今の私がいる。
その経験から私は決心した。
私は、日本で働く。