2018年
第23回入賞作品
10代の約束賞
卒業試験 宮地 尊羽(14歳 中学生)
「このクラスで偉い順番に並びなさい」
突然、小学校卒業間際の僕たちに担任の先生がこう言い放った。
僕はこの出来事が強く心に残っていて、中学三年生になった今もこの出来事の後に先生としたある約束を今でも覚えている。その時の話をしよう。
「これは先生の出す卒業試験です。解けたら呼びに来てください」
先生はそう続けて教室を後にした。
あまりに唐突な出来事に僕をはじめクラスメートたちはざわつき始めた。時間割を見ると一時間目から六時間目まで『学級会』となっている。考える時間は無制限のようだ。
おもえば僕らの担任の先生はいつも、説教をしてわからせるのではなく生徒たち自らに考えさせて解決させることを大切にしていた。
最初は戸惑っていたクラスメートたちも徐々に今考えなくてはならないことが分かってきたようだ。
そして三十分ほどみんなで話し合ううちに「誰も嫌な気持ちにさせずに人の優劣を決める方法とはどんなものか」という議論へと移り変わっていった。
そこから数十分話し合うと、おおかた一つの案にまとまってきた。その案とは、一人一人が自分の順番を自分で決めて紙に書き、その数字通りに並んで、順位が被った人は横一列に並ぶというものだった。
こうすればだれも嫌な気持ちにならない、と思った僕たちはこの案で決定し先生を呼んだ。そしてこの並び方の詳細を説明し、誰も嫌な気持ちになっていないことを強調した。
この時四十人のクラスのうち、自分を中間の二十番と書いた人と自分を一番下の四十番と書いた人がほとんどだったのだが、その並び方を見て先生は悲しそうにこう言った。
「この真ん中に並んでいる人たちは自分たちより後ろに並んでいる人たちを下に見ているんですか。後ろに並んでいる人たちは自分たちより前にいる人たちを見上げて生活していたんですか。」
先生は言い終わると浮かない表情のまま終礼を始めようとし始めたので、僕らは「最後の試験をこのままでは終われない」と思い、先生にもう一度だけチャンスをくださいと懇願した。
先生は「あと一度だけですよ」といって再び教室を去った。
そして僕らの話し合いは振出しに戻り、もう一度議論が始まった。それから一、二時間話し合っているうちにクラスメートたちはだんだんと気づき始めた。
優劣をつけようとしている時点で間違っているんじゃないだろうか、と。僕たちは並ぶことを放棄する、ある案を考え付き、先生を呼んだ。僕らは先生に、
「僕らに上も下もありません。どんな観点で見てもそんなこと決められません。」
と言い、僕らは輪になって並んだ。
すると、先生の顔に笑顔が戻った。そして先生は輪になった僕らの中に入り、話をし始めた。
「今後の人生で、君たちには人のことを見下したり、自らのことを下だと思ったりしないでほしいんです。人の価値も、自分の価値も、勝手に決めつけるようなことは絶対にしないでください。ここにいるみんなに無限大の価値がありますから。これは、先生とみんなとの約束です。何があってもこれだけは忘れないようにしてくださいね」
説教じみたことをしたがらない先生は『約束』という言葉を使った。
僕はこの先生との大切な約束を今もずっと覚えているし、今までこの約束を破ったことはないつもりだ。
そして僕が大人になったら、僕の子供ともこの約束をしたいと思う。