第26回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2017年
第22回入賞作品

グローバル賞

もう一度伝えたい言葉 王 佳瑩(17歳 学生)

あと15分で、おばあちゃんとお別れすることになる。あれは、私が日本へ旅立つ、おばあちゃんとの最後の時間だった。

お母さんとお父さんが、「荷物をまとめて下で待っているよ」と言って、先に行ってしまった。とうとう、私とおばあちゃんの二人になってしまった。私の心のどこかでこの時が来るのをひどく怯えていたが、同時にずっと、この時を待ちわびていた。それは、私にはどうしてもおばあちゃんに伝えたいことがあったからだ。

おばあちゃんはとても温厚な人で、私の記憶の中で一度も怒ったこともなく、例え八つ当たりされても、にっこりと笑って「まあまあ」と言うような人だった。そして、私とお母さんが喧嘩すると、いつも喧嘩の仲裁をしてくれた。お母さんには「もっと子供の気持ちを考えてみて」と言い、私には「お母さんも大変だから」と、飽きる事もなくいつも私たち両方の気持ちを考えてくれた。きっと、おばあちゃんから見ると、私もお母さんもまだまだ子供だったと思う。

だから、私の日本への留学に反対だったお母さんに、「行かせてもいいんじゃない」と言ってくれたかもしれない。正直に言うと、私はとても意外だった。いつもなら、多分「もっとお母さんの気持ちを考えて」とか、「留学はまだ早いんじゃない」とか、言われるかと思った。しかし、ほんの一瞬で、おばあちゃんには私の本気と不安が分かったんだと思う。そして、おばあちゃんはそっと私の背中を押してくれた。その時、本当にうれしかったが、「ありがとう」と言えなかった。

それから留学が決まって、おばあちゃんは実家に帰ることを決めた。私は初めて、これから毎日おばあちゃんのごはんが食べられなくなること、おばあちゃんと他愛ない話が出来なくなること、おばあちゃんと会えなくなることを考え始めた。だから、私は日本へ行く前に絶対におばあちゃんに今までの感謝を伝え、そして、一つ約束してほしいことがあることを伝える決心をした。

ずっと待っていたら、時間がどんどん過ぎてしまい、これこそ、最後のチャンスだった。「おばあちゃん」、私は口を開いた。涙が滲み出ないように真っ直ぐおばあちゃんの顔を見た。いつも通りに、しわしわで穏やかなおばあちゃんの顔。「どうした」、おばあちゃんはいつも通りの口調で聞き返した。「…今まで、本当に、ありがとう」、涙が溢れて、口の中にも入ってしまった。ほんのりとしょっぱかった。おばあちゃんは驚いた様子で、少し口を開いて、それから、私と同様にしょっぱい涙が目から流れてしまった。二人共しばらく涙を流し、やがておばあちゃんが頭をあげて、声を震わせながら「あなたは…いい子よ…」と言った。その瞬間、私はどれだけ嬉しいか今でもはっきり覚えている。おばあちゃんの自慢の孫娘にずっとなりたかったからかもしれない。そして、私は一旦涙を拭いて、こう続けた。「おばあちゃんに、約束して欲しい」。「なに」。「ずっと元気でいてね。そして、また会おうね」。涙がまた溢れ出て、おばあちゃんの輪郭もぼやけてしまったが、おばあちゃんの大きな手が私の手を包んだのがすぐわかった。とても温かかった。「もちろんだよ」。おばあちゃんが涙をこらえながら笑ってくれた。そして、約束してくれた。

あれから二年が過ぎ、おばあちゃんにも二年間ずっと会えなかったが、いつもお母さんとの電話で元気でいると聞いて安心した。今では、お互い会えなくなったが、何か辛いことがあった時、「おばあちゃんならどうするだろう」と考えるようになって、いくつかの困難を乗り越えられた気がする。おばあちゃんの存在はずっと私の中にいて、私が挫けそうな時は、昔と同じようにいつもそっと私の背中を押してくれる。私は、おばあちゃんとの約束を果たす日まで、もっと成長して、もう一度「いい子」だと褒められたい。そして、もう一度「ありがとう」と伝えたい。