第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2017年
第22回入賞作品

グローバル賞

人生が変わった「約束」 バルタベコヴァ スィンバット(24歳 大学院生)

 1998年。私は父とバザールに行きました。父は建築会社をしていまして、仕事のことで何かを買うためにバザールに行きました。お父さんが専門的な道具を探しに行って、私をブティックで働く知らないおばさんに世話してもらいました。おばさんはお客さんがあまりいなかったから、一人で不思議な本を見ていました。
 その頃5歳だった私は、あれが何なんだろうと思って、おばさんに「おばさん、この本は何の本なの?」って聞きました。するとおばさんがニコニコして「あなたが絶対わからない本だよ」って言いました。「なぜ私がわからないの?おばさんが読んでくれるとわかるよ」と言ったとたんにおばさんが大きい声で笑ってしまいました。「ねえ、おばさん、なんで笑っているの?」って言った時に、「この本は日本語で書いてあるから、あなたがわからないよ」と言われました。5歳まで見たことがない、聞いたことがない日本語について偶然にバザールであったおばさんに教えてもらいました。
 父が来るまで、おばさんが日本について、日本語について教えていて、子供だった私が日本語に興味を持つようになりました。
 その偶然の出会いからすでに19年が経ちました。カザフスタンの大学に入って、日本語を専門にしました。そして、1年間の留学も経験しました。たぶん、5歳の時、バザールで出会ったおばさんじゃなかったら、私は日本語を勉強しなかったかもしれない。
 日本語のおかげで日本に来れて、旅行もできて、自分の意識も広げることができました。また、日本人の友達と日本のママとパパができて、日本は私にとってカザフスタンの後、第2目の母国になりました。なので、日本語を勉強し始めてうれしいです。今は、私の人生の中で日本語がないことを想像できないぐらいです。日本語に憧れていて、将来の夢も作りました。それはカザフスタンで日本語の先生になることです。
 カザフスタンでも日本でも「なぜ日本語の先生になりたいの?」とよく聞かれます。その時、19年前の出来事を思い出します。父が迎えに来て、そのおばさんにバイバイする時に「しんちゃん、日本語面白い?勉強したい?」と質問されました。私は「うん」と言ったら、
 「じゃ、約束してね」
 「何の約束?」
 「今日私に教えてもらったことを忘れず、日本語を勉強することだよ」
 「約束!」と言いました。
 今も、その約束を良く思い出します。また、そのおばさんのことも思い出します。いつかの間にか、そのおばさんと会ったら、感謝の気持ちを伝えたいです。おばさんの「約束してね」という言葉のおかげで私の人生が変わったからです。