2017年
第22回入賞作品
学生特別賞
約束 平木 凜々子(15歳 中学生)
私は今まで家族や友達と数え切れない程、沢山の約束をしてきたと思う。「思う」というのは、正直、約束の内容を忘れてしまったり、あるいは約束したこと自体、記憶が曖昧だったりするからだ。
しかし、私には必ず守りたいと思っている約束がある。私は小学校に入る前、ドラマを見てある女優の方のファンになった。彼女がテレビ画面に映っていると心がわくわくし、彼女が出演してる番組があると、欠かさず見ていた。ある日、祖父母と旅行に行くことになった際、幼かった私は、彼女に会いたいと我がままを言って彼女が所属する事務所まで連れていってもらった。無論、彼女に会うことはできなかったのだが、私は手紙を預け、彼女が読んでくれるであろうことを想像するだけど幸せな気持ちになった。
数日後、彼女から葉書が届いた。私の手紙を読んでくれたこと、これからもテレビや舞台で頑張っていく決意がしたためらていた。私も「いつか直接、お芝居を見に行きます」と返事を送り、それ以来、年に何度か舞台の案内等を送って下さるようになったが、私は「舞台を見に行く」という約束を果たせないまま、月日が流れていった。
小学五年生になった私は、彼女に手紙で「言葉の大切さ」について尋ねたことがあった。彼女は「自分の気持ちを正直に伝えること、嘘をつかないことが大切だ」「しっかり勉強して言葉の大切さを学んでほしい」という手紙を返してきてくれた。私は多忙な彼女が常に丁寧な手紙を下さることが本当にうれしかった。
しかし、その数年後、彼女やその周囲の人に関する報道が流れ、それがきっかけで彼女はテレビに姿を見せることがなくなった。舞台の案内も届かなくなってしまった。彼女自身が社会に責められる行為をしたわけではないが、仕事を自粛している彼女の気持ちを想像した。そして、自分の無力さを痛感すると共に、未だ「舞台を見に行く」という約束を果たせない事を悔やんだ。私が自ら彼女に伝えた約束であるにも関わらず、それが守られないままになるのではいないかと不安になり、またこれまで優しい言葉を掛けて下さった、彼女に感謝した。
昨年、久しぶりに彼女からの舞台の案内状が送られてきた。今までと変わらず、丁寧な手紙も添えられており、彼女の新たな決意や、感謝の気持ちが読み取れた。
私には想像つかないような苦労や試練が彼女には降りかかってきたに違いない。女優という職を辞そうとしたかも知れない。しかし彼女は自分の果たすべき責任のため、心新たに舞台の世界に戻ったのだと思った。
私はこれまで何度も彼女の言葉に励まされた。それは彼女の「自分の気持ちに正直な、決して嘘をつかない」という言葉に心が引かれたからだと思う。
私はこれまで誰かと交わした約束を心のどこかで軽んじてきたのかもしれない。約束は守るべきものと思う一方で、自分自身に言い訳することで約束が果たせなかったこと、約束自体を忘れてしまっても「仕方ない」と思うこともあったかも知れない。
しかし、約束が果たせなくなった時、悔やんでも悔やみ切れない後悔が残ってしまうに違いない。相手の心に大きな傷を付けてしまうに違いない。
私は間もなく高校生になり、これから多くの人と多くの約束を交わしていくだろうが、自分の気持ちに正直な約束を交わし、相手を悲しませることのないよう、相手を勇気付けられるよう、その約束を一つ一つ守っていきたい。
まずは「彼女が立つ舞台を見る」という約束を実現することから始めようと思っている。そして彼女に「やっと守れたよ」と伝えたい。