第26回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2017年
第22回入賞作品

学生特別賞

ただいま 宮脇 彩(17歳 高校生)

 「いってきます」は、「ただいま」を言うための約束。無事に行って帰ってくるための大切な約束。元気に行って、元気に帰ってきます。それまで、安心して待っていて。
 「いってらっしゃい」は、「おかえりなさい」を言うための約束。無事に行って、帰ってきなさい。約束しましたよ。確かめ合うための、大切な約束。
 うまれて初めて、今住んでいる建物の玄関に入った時、一番最初に、耳にした言葉は「おかえりなさい」だった。まだ話すことのできない私に変わって、父と母が「ただいま」を言った。その瞬間から、そのただの建物は、私にとって一生の帰る場所、「家」になった。そして、「いってきます」と言ったら「いってらっしゃい」、「ただいま」と言ったら「おかえりなさい」を。それが、両親と結んだ初めての約束になったと、今になって思う。毎日毎日、欠かすことなく、その約束は守られていった。
 しかし、中学生となったある日。家に帰って来た私は、その時たまたま近くに誰もいなかったこともあり、「ただいま」を言わずに自分の部屋に行って、そのまますごした。それは自分にとっては、何気ないささいなことだった。だが、
「帰っていたなら、一言知らせに来なさい。いつ帰ってくるのか、ずっと待っていたんだぞ。」
急に部屋の戸が開いて、父が怒りながら私に言った。
 その瞬間は、なぜそんなことで怒られなければならないのかと、素直に反省できなかったが、よく考えてみると、私は父に、本当に申しわけないことをしたのだと思った。そして、父に感謝しなければならないことにも、気がついた。
 父は科捜研という仕事柄、毎日のように痛ましい事件を目の当りにしている。特に胸が痛むのは、子どもの誘拐事件や殺人事件、交通事故などで、見るたびに悲しくなるそうだ。
「もし、自分の子がこんな目にあったら、と考えると、本当に恐い。」
いつか父が、ポツリと言ったような記憶がある。父は、二度と「ただいま」を言えなくなった子ども、そして「おかえりなさい」を言えなくなってしまった親の悲しみを、嫌と言うほど知っていた。
 怒られた後、ずいぶんと時間がたってしまったが、父に謝りに行った。
「絶対に毎日、『ただいま』を言いに来るから。」―― 心配してくれてありがとう。大事に思ってくれて、ありがとう。その気持ちに、毎日応え続けるから。
 父は、少し驚いた様子だったが、一言、
「そうか。」
と言った。そして、小さくつけ加えた。
「頼んだぞ。」
 「いってきます」―― 子供の使命は、元気に出かけて、元気に「ただいま」を言うこと。「いってらっしゃい」―― 両親の願いは、ただただ無事に、私が帰ってくること。
 十七年間繰り返してきた、この何気ないやりとり。とぎれる日なんて、あってはならない。まるでおまじないのような、短いけれど、大きな意味を隠した言葉。こんなにもわかりやすく、さりげなく、毎日伝えてくれていたとは気づかなかった。
「おかえりなさい。」
それは両親からの愛の贈り物だった。