第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2016年
第21回入賞作品

グローバル賞

留学生としての約束 ソフィアヨトベルイ(32歳 留学生)

 東京に住むようになってから半年以上になった。勉強するために来て、しかも聞かれたら、日本語の学習をきっかけに日本に来た、と答える。日本に暮らし始めたばかりのときに何よりも日本語を優先して勉強しようと誓った。自分へのとても強い約束であった。しかし、その約束が徐々に変わったのだと認めなければならない。
 なぜかというと、まずは「約束」という言葉について簡潔に説明したいと思う。意味が皆にはもう明白だと思うが、簡単にいうと「人や当事者の間で定めたこと、取り決めたこと、守るべきこと」である。そしてほとんどの人も普段自分に対して約束をするのではないか。どうせ何の約束でも破ったら意味がなくなる。つまり、約束は守るものだ。
 ところが、守るべきだといって、最も大事なのは考えの柔軟性であるかもしれない。私はそれがだんだんわかるようになるにつれて、自分への約束も変わってきた。学校に入った頃、もともとの約束を考えながら友達の誘いを断ったりして、就寝前に本を読まず映画を見ず、その代わり机で教科書を読んでいた。しかし、満足できなくて、いつももっと勉強しなきゃという気持ちがあったのでストレスももちろんたまっていた。それから結局、毎日できる限り頑張っていてもほとんど何も身につかなかった気がした。がっかりした。どうしても新しい文法、語彙や漢字が覚えられないみたいだと思っていたのだ。
 今振り返ってみると、解決方法がそんなに難しくない。でも多分、そのときに自分の厳しい約束を重視しすぎたので気付かなかった。考えたら、基本的に約束は普段いいことだ。とは言うものの、私のその頃の約束というかルールのせいで留学の楽しい点を忘れてしまった。ようやくそれが変わってきたが。
 どんなに勉強しても覚えられない問題で困っていた私は、頭の中のもっと勉強するべきだと大声で叱っていた声にもう耐えられなかったから、少しの間だけでもこの約束をゆるくさせようと決めた。寝る前に好きな小説を母国語で読んだ。学校後に友達と遊びに行った。そしてあっという間に日本語も上達した。
 楽しみで本を読んだりした時、勉強に集中していなかった間が、頭の休憩になったとは言えるだろうか。そういう休憩が学びたいものをちゃんと覚えるように、たまに必要だと思う。それから、外の遊び時間も大分役に立った。友達とのタメ口の話、店の人との丁寧な話、つい耳に入ってしまう周りの人の生き生きしている会話、広告に書いてあるちょうど教えてくれた漢字、道に流れている音楽、機関からのお知らせなど。留学生が出かけるだけとしたら、いたるところで新しい言葉や表現をすぐ目にする。頑張って覚えようと考えなくても、その日本語に取り囲まれた人の言語知識が次第に広がっていくのは間違いない。つまり、私がやっと思うようになったのは、新しい人に会ったり、日本の文化の色々なことを調べたり勉強したりするなら、日本語も自然に上達することだった。一人で新しい言語をじっと机で勉強する代わりに、日本を経験し、さらに周りの人と話した方がいい。
 そして新しい約束は?
 できるだけ日本にいる間、毎日を大切にしたい。知識を広けるために日本の様々な文化を体験してみたい。勉強はもちろん、でも方法がたくさんあるので制限するより新しい方法を見つけたいと思う。