第26回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2015年
第20回入賞作品

中学・高校生特別賞

弟のギター 三浦 彩由香(16歳 高校生)

 「俺、ギター弾けるようになりたい。」
先日、弟は家に帰ってくるなりこう言いだした。弟が自分から言い出したのが初めてであったから、何かあったのではないかと私と母は心配した。が、どうもそうではないらしい。なんでも、学校の担任の先生がギター上手で、学年一のイケメンもギター上手、だから自分も弾けるようになりたいと思ったのだそうだ。
「でも、どうやって弾けるようになるのさ。うちはピアノやエレクトーンや鍵盤楽器はあるにはあるけど、弦楽器なんて何かの懸賞で当たったウクレレくらいしかないんじゃない。」
私は言った。弟はキッチンにいる母に向かって
「母さん、この家にギターってないの?」
と言った。
「ええとね、確かあったと思うわ。昔、お父さんが弾いていたやつ。納戸の奥の方にあるんじゃないかしら。」
弟は走って納戸の方へ向かって、ゴソゴソとギターケースを探し始めた。
「一体どうしちゃったのかしら。」
弟の今まで見たことのないやる気に母と私は目を丸くした。
 父が帰宅すると、弟はギターケースを持って父の方へと駆け寄った。
「父さん、ギター教えて。」
「おっ、これ自分が昔弾いていたやつじゃないか。懐かしいなあ。」
父はスーツのままギターを弾きはじめ、ビートルズの曲を歌いだした。
「えっ、お父さんってギター弾けるんだっけ?」
私は驚いた。父は
「もしかして覚えてないのか。彩由香が幼稚園の頃、沢山弾いていたんだぞ。それに、幼稚園では『パパはギターがね、すっごい上手なんだよ。』って自慢していたらしいじゃないか。」
「そんなこともあったかもしれない…」
「第一、父さんが弾けなかったらなんで家にギターがあるんだよ。」
弟が口を挟む。全く、頭にくる弟だ。
「まあまあ、そんなことは置いといて、お父さん一緒に歌おうよ。」
私はそう言ってピアノのふたをあけた。父はギターを弾きながら、私はピアノを弾きながら上を向いて歩こうやビートルズの曲を歌った。
「ちょっと待てよ、二人で良い感じになるなよ。」
弟がふてくされた。
「悪い悪い。教えるから心配するなって。」
自分が愛用していたギターを弟に貸し、丁寧に教え始めた。父が息子にギターを教える。そんな微笑ましい姿に、母と私は顔を見合わせて笑った。
 ギターレッスン開始から三日後。弟の口から
「どうしよう。」
という言葉が出てきた。私は後に続く言葉が「もう、俺ギターやめるわ。」だとか「俺ってギターむいてないのかもしれない。」というものだと思ったので、「何言ってんの。始めて三日しかたっていないのにそんな弱音はいてどうするの!」と言おうとした。ところが、続けて弟の口からでてきた言葉は私の予想と全く異なるものであった。
「俺、ギターにハマっちゃうかもしれない。」
こんなに何かに夢中になる弟は今までに見たことがなかった。私はちょっと嬉しくなった。
 一週間後には弟はギターを一通り弾けるようになり、一か月後には完璧に弾きこなすことが出来るようになった。内心、一か月後にはギターはまた納戸行きかと思っていた私は弟の見違えるほどの上達にただただ驚くばかりだった。
 ある日の夕方、私は突然思い立ち
「いつかさ、家族みんなで演奏したいよね。」
と言った。
「私は、ビデオ係かマラカス参戦でも良い?」
すかさず、キッチンから母の声が飛んでくる。
「何言ってるの。お母さんはエレクトーン担当でしょ。私がピアノ。それで父と息子でギター。良い感じじゃない?ええと、練習期間が一年くらいあれば間に合うかな。」
「一ヶ月で十分。」
今度はすかさず、弟の声が飛んでくる。弟はもうすぐ誕生日を迎え、自分のギターを購入予定である。そのためか、今まで以上に練習に励む毎日だ。
「分かった、分かった。家族で演奏、絶対やるからね。約束だよ。」
 この日、小さな小さな、でも家族にとって大切な約束ができた。我が家の小さなコンサートは近い将来、開催予定である。