第26回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2015年
第20回入賞作品

中学・高校生特別賞

想いを胸に 小松 鈴音(17歳 高校生)

 「将来の夢ってなに?」私は一人の友人にそう問いかけた。いきなりの質問に友人はびっくりしながらもこう答えた。「私の夢はね、山本美香さんのようなジャーナリストになることだよ。」山本美香さんといえば、「罪のない人が殺される事件が起きても、その人達は『助けてくれ』と外に伝えることができない。だから伝えることができない現状をジャーナリストとして持って帰りたい」という思いから戦場に行き、写真を通して人々に現状を伝えた人。そして、その思いを持ちながら戦地で亡くなった人。友人は続けた。「世界には今も戦場で苦しんでいる人がいる。だから私はそういう現状を伝えることによって変えたいんだ。」彼女の目は今までにないくらいきらきらと輝き、未来を向いていた。
 私の夢はパティシエになること。五歳の時、お母さんと一緒に誕生日に作ったお菓子の家ケーキ。それはまるで自分がヘンゼルとグレーテルの世界に入り込んだようにさえ思えた。嬉しかった。そのケーキが今でも忘れられず、「いつか私も沢山の子供が目を輝かせるようなケーキをつくりたい。」と思っていた。しかし、私の夢は漠然とし本当に叶うかもわからないという思いが頭の中をよぎり、自分の夢を人に話すことは避けていた。
 中学三年生になった私は、学校の行事で職場体験に行くことになった。どこに行こうか。私の頭の中にはすぐお菓子の家ケーキが蘇った。「パティシエになれるかはわからない。けれど職場体験してみたい。」私はケーキ屋さんに職場体験に行くことを決めた。
 職場体験当日の朝、私は息をのんだ。パティシエは私が思い描いた仕事とはかけ離れ、忙しく難しく空気までもが緊張している。「これが、私がやろうとしていた仕事だったのだ。」まるで別世界に来たようだった。しかし、お店が開店し、お客さんが来店した時私ははっとした。さっきまでのピリッとした空気とはうって変わり、真剣ながらも沢山の笑顔と優しさでお客さんを包みこんでいる姿がそこにはあった。どうしてここまでできるのだろう。私がそう思っている時、社長が私の所へ来て言った。「このチョコレートはどう作られているか知ってる? これはね、君と同じくらいの子が働いて作っているカカオからできているんだよ。けれど、彼らは一日中働いてもほんのわずかな給料しかもらえないし、第一、彼らはそれがチョコレートになることを知らない。見たことも食べたこともないんだ。そうやって、僕達が使っている食べ物はチョコレートだけでなく全てにおいて作っている人の想いが沢山詰め込まれている。たった一粒でさえもね。だからこそ、僕達はその想いを受けとめ、引継ぎ、大切にお客さんに届けたいんだ。」私は胸の奥が熱くなった。ここには想いが集結している。それぞれの生産者の想い、社員の想いが一つ一つのケーキとなっている。一人のお客さんと向き合う姿はとてもかっこよくきらきらと輝いていた。
 私は職場体験が終わった次の日、友人に言った。「私にも夢ができたよ。私の夢はね、パティシエになること。お菓子に関わるもの全てと真剣に向き合い、その想いをのせて少しでも良いものをお客さんに届けられるようなパティシエになりたい。そしてカカオを作っているチョコレートを見たことない人たちにチョコレートケーキを届けたい。だから、社会情勢のことも勉強しなきゃね。」友人は黙ってそれを聞いていた。そして私が話し終わると笑顔で言った。「私達、やることは違うけれど想いは一緒だね。沢山の想いを背負って世界を変える。お互いそんな人に絶対なろう。約束だよ。」私達は未来に向かって一歩ずつ歩き始めた。絶対になる。私は心の中で誓った。職場体験で出会った方、友人、そして未来の自分に向けて。