2015年
第20回入賞作品
佳作
「しゅーGOドラちゃんズ☆」 今野 綾乃(17歳 高校生)
私が小学五年生だった頃、自由帳に「しゅーGOドラちゃんズ☆」という漫画を描いていた。主人公はドラえもんだが、ストーリーは自分で考えていた。
はじめは、休み時間に一人で描く落書きのつもりだった。
ところがある日、親友の茜ちゃんが私を見て、
「茜も描きたい」
と、言い出した。そして、次の日から彼女は私が使っているのと全く同じ自由帳に、私の漫画をかき写すようようになったのだ。
しばらくすると、私が漫画家、茜ちゃんは編集者、と呼ばれるようになった。と言うのも、私はかなりのなまけ者で、執筆を怠ったてしまうことがしばしばあったのだが、その度に彼女は私に注意した。それが周囲には出版社の一室の光景に見えたらしい。
なかでもおもしろいのは、茜ちゃんが「最近漫画が雑じゃない?」と注意した、その次の作品がイヤミな程、丁寧に描かれていることだ。それ位私たちはプロのつもりだった。
遊ぶ度に漫画について話し合い、次第に、より本物らしくしようと、コマ割りや背景にまでこだわるようになっていた。
こうして私たちが漫画を描き始めてから一年がたとうとした頃、ついに自由帳が残り一ページになった。何をしても三日坊主で終わってしまう私にとって、この達成感は大きく、せっかくなので最後のページは茜ちゃんと一緒に考えようと思っていた。
だが、それは実現しなかった。茜ちゃんの転校が決まったのだ。彼女はお別れの前、完成したら送ってね、と私に漫画を託した。
私は、最後は二人で描くから、約束は守れないと言おうとしたが、できなかった。どうやら彼女がいないまま完成させたくないとう思いと、彼女が私を残してどこかへ行ってしまうことへの怒りが、私をかき乱し、言わせまいとしているようだった。私はやけになっていた。
結局、何も言えずに彼女とお別れし、私の手元には描きかけの漫画が残った。その後も、私はそれを完成させなかった。
そうして数年が経ち、私が高校へ入学する年、突然茜ちゃんの家に遊びに行くことが決まった。だが、それを聞いた私は、嬉しい反面、微妙な気持ちでもあった。結局約束を破って送ることのなかった漫画をどう思っているのか、気にしつづけていたからである。
彼女と別れてからの交流といえば、年に一度の年賀状ぐらいで、一言添えられた言葉は一切漫画に触れていない。それが余計に私の神経をとがらせた。もしかしたら、彼女は約束を破った私にずっと怒っているのかもしれない。
しかし、実際に再会すると、そんな悩みは無駄だったのだと知った。
久しぶりに会った茜ちゃんは、すぐに漫画の話をしてきたのだ。彼女は、怒っていなかった。糸のようにぴんと張りつめていた緊張が緩み、私は思わず笑ってしまった。茜ちゃんはやっぱり編集者だな。
それから私たちは四年ぶりにようやく漫画の打ちあわせをした。ここはハッピーエンドにすべきか。最後のページだからあとがきにしたらどうか。様々な意見を出しあい、最終的に、新聞風の読みものを書くことになった。
私は自宅に戻るとさっそく最後の一ページに取りかかり、埋めおわるとすぐに彼女に送った。
やっと長年の約束を果たせた、という充実感にひたっていると、彼女からメールが届いた。感想を楽しみにメールを開くと、目にとびこんだのはこんな言葉だった。
「二冊目も、楽しみにしてるね!」
四年ぶりの催促に、私は思わずほほえんだ。