第28回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2014年
第19回入賞作品

中学・高校生特別賞

「条件付きの優しさ」 安田 美咲(15歳 学生)

 「スマホ買ってください!お願いします!」
 「いいよ、その代わり中毒になったらあかんで、ツイッターもラインも禁止。約束な」こうして私は、三年半使い続けたガラケーを捨て、新しくスマホを手に入れたのだった。
 何しろ、ガラケーを使っていると周囲から浮いた存在になるのが嫌だったのだ。周りの友達がスマホを使っている中、ひとり「カチャ」と音を立てて携帯を開くのは、何だか時代遅れみたいで少し恥ずかしかった。もしスマホを持っていれば、ゲームし放題。(フォロー出来ないが)芸能人のツイート見放題。いつでも好きな時に音楽を聴けるし、知りたいことがいつでも調べられるのに・・・と考えていた。だから、スマホを手に入れた時の喜びはとても大きかった。
 「中毒にならないことと、ライン、ツイッターの禁止(訳:日々の勉強を怠らないこと)」という母が定めた条件のもとで、私の少し制限されたスマホライフが始まった。
 しかし、スマホライフ開始から数日後。
 好きな曲のミュージックビデオに夢中になり、ダウンロードしたアプリでゲームにいそしみ、掲示板のスレッドを眺め、ふと時計を見ると二時間経過。気づけば食事中にもスマホを手に取る癖がついていた。
 「ヤバい、中毒になりかけてる・・・」母との約束を思い出し、これではいけないと気づく。しかし、しばらく使うのをやめようとしても、通知が来たりすればついつい使ってしまう。インターネットは恐ろしい魔力を持っている。
 小さいときから、何か一つのことにのめりこむ癖があった。小学校の時は本を読むことに夢中になり、周囲の音が聞こえなくなるほどだった。そしてその癖はすぐに母に見抜かれ、「夢中になるのはいいけど、周りのことが見えなくなったらあかん」などとよく小言を言われた。今も同じだ。
 それだけではない。まじめで几帳面な母は、寝る時間や起きる時間、勉強のしかた、洗濯物の扱いや布団のたたみ方に至るまで、しょっちゅう注意してくる。そのたびについカッとなってしまい、時にひどいことを言って傷つけてしまうこともある。
 でも、思えば今まで母の言葉にたくさん救われ、自分の悪いところを知ることができたと思う。部屋の片づけと整理整頓が下手な私を見て「そんなことも出来なかったら社会人になってから恥ずかしいで?」と一言。私の小さな悩みを「そんなことで何悩んでんの。アホか」と笑い飛ばしたり、「あんたは好い所もあるんやから、自信持ち」と慰めてくれる。耳の痛い説教やダメ出しも多く、今でもたまに反抗している時もある。それでも母の言葉の底には優しさがある。母は、私の悪い癖を理解してくれていたからこそ、しつこく注意をしてくれていたのだ。
 スマホを買ってもらった時に交わした約束も、インターネットの世界ばかりに気をとられて、周りが見えなくなってしまうかもしれない私への心配と気遣いの表れだ。本当にありがたいことだと思う。
 今度母とじっくり話す時間がとれたら、
 「今までずっと、心配させてごめん。反抗したり、ひどい事言ってごめん。いつもありがとう」と言おう。そして、今度は私からこう約束しよう。
 「ネット使いすぎないように気を付けるし、これからはお母さんの言うことも反抗せずにちゃんと聞くから」
 母はたぶんこう答えるだろう。
 「ホンマに?そんなこと言って、どうせすぐに反抗するくせに」
 母にはやっぱり頭が上がらない。