第26回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2013年
第18回入賞作品

中学・高校生特別賞

「夢になった君との約束」 大西 里奈(18歳 学生)

 中学二年生の私は、買ってもらったばかりの携帯で沢山の人とメールばかりをしていた。友達、友達の友達、またその友達、と輪を広げていくうちに県外にもメール友達が出来るようになった。その中の一人に、同い年の女の子、真希がいた。
 真希は、メール友達の祐樹の彼女で、岡山に住んでいた。今考えれば、隣の県くらいすぐに行けると思えるが、中学二年の私には県が違うというだけで、二人の間の距離がとても遠く感じて、仲良くなる度に切なくなった。
 毎日メールや電話をした。祐樹の愚痴や学校のこと、私の好きな人のこと…。会ったことはないのに、私たちはお互いに本音を出せるくらいに仲良くなっていた。「中学卒業したら、祐樹と会いに行くからね。」真希が言ってくれたその一言が、私の支えだった。
 真希はいつもにこにこして、元気で明るくて、私よりもずっと大人な考えをしていた。私が泣いて電話をしたときも、真希はいつも優しい声で話を聞いてくれた。そんな真希が一回だけ、私に泣きながら電話をしてきたことがある。
 「私、もう無理だ。」
 何故そんなことを言うのかを聞けば、真希はポツリポツリと理由を話しはじめた。それは、中学二年生の私にとって、残酷で悲しいものだった。
 真希に母親はおらず、父と姉と三人で暮らしていた。母親は浮気をして家を出たまま、行方が分からないのだという。父はそんな母への憎悪から、母に似ている真希を愛さず、暴力ばかりふるっていた。「私、お母さんじゃないのにね。」力無く笑う真希が酷く痛々しかった。最近は、ご飯すらもらえず、年をごまかしてバイトしないと生きていけないんだと自傷気味に笑う。傷とアザだらけの汚い身体、ストレスのせいか抜け落ちていく髪…。もう耐えきれないんだ。私、もう無理だ。真希はさっきと同じように、また泣いた。
 まだ子どもだった私はかける言葉が見つからず、何の根拠もないのに、大丈夫だから頑張れと繰り返していた。そんな言葉が、無意識に真希を追いつめているとも知らずに。
 「ねぇ、里奈。私と約束してくれないかな。私みたいに苦しんでいる子に、手を差しのべれるような人になって。それと、里奈の笑い声はね、すごく元気になれるんだ。直接見たことはないけど、きっとステキな笑顔だと思うから。だから、里奈はずっと笑ってて。」
 真希はそう言った後、「私、里奈と友達になれて良かった。ありがとう。」と呟いて電話を切った。かけ直してもかけ直しても繋がらなかった。メールも返ってこなかった。妙な胸騒ぎが止まらなかった。
 次の日の昼、祐樹からの電話で起きた。どうしたの?と尋ねても、祐樹はずっと泣いていた。心臓がうるさかった。ようやく口を開いた祐樹は、「真希が死んだ。」と、呟いた。廃ビルの屋上から飛びおりたと言う。父親は真希の遺体を何も言わずに見つめていたらしい。その後のことは覚えていない。ただ、真希としたひとつの約束が、ずっと響いていた。
 「私みたいに苦しんでいる子に、手を差しのべれるような人になって。」
 真希、見てくれていますか?そちらでの生活はどうですか?真希がいなくなってから四回目の秋を越しました。私は今、手を差しのべられない距離の人も笑顔に出来るように、ダンスを始めました。見ているだけで元気になれる踊りを魅せるパフォーマーと出会い、真希との約束を胸に頑張っています。この世界で、どれだけの人が苦しんでるか、私には分かりません。私は無力だから、みんなに手を差しのべることができないかもしれません。でも、せめて私と関わる人には笑っててほしいから。真希との思い出を、真希との約束を、心に刻んで、私は今日も、笑顔です。