第26回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2013年
第18回入賞作品

佳作

「おばあちゃんとの約束」 糸岡 真美(17歳 学生)

 私のおばあちゃんは強いです。五人兄弟の長女として、過酷な戦争時代を生き抜いてきました。負けず嫌いで料理も勉強も何でもできて、太陽みたいに明るくて楽しい人です。反対に、私は弱いです。末っ子で甘やかされてきたのでワガママだし、人に頼ってばかりいます。いつも口ばかりな上に、すぐクヨクヨする臆病者です。
 そんな私が悩んだ時には、おばあちゃんは決まって「死にはせえへん」と笑い飛ばします。すると悩んでいる自分がちっぽけに思えて、不思議とふっと心が軽くなるのです。この人には敵わないなと心底感じます。
 小さい時から私の両親は共働きでしたが、おばあちゃんが面倒を見に、家に来てくれたおかげで寂しくありませんでした。小学生の頃は、私が学校から帰ってくるといつもうちで待っていてくれて、よく二人でサスペンスドラマの再放送を観ながら昼寝をしました。他にも遊びで取っ組み合いをしたり(私が勝てた事は一度もありませんでした)、お腹が空くと塩味のきいた卵焼きを焼いてくれました。私が濃い味が好きになったのは多分、おばあちゃんの影響だろうなと思います。
『うちがばあちゃんの身長追い越して、大人になったら、めっちゃでっかい家買ったげるし家族みんなで住もうな!』
 『期待しとくわ。ほんならばあちゃん、それまで意地でも生きとかんとアカンな。』
一緒に過ごす中で、私達は度々こんな約束をし合ったのを覚えています。この話をするとおばあちゃんがすごく嬉しそうに笑ってくれるので、小学生だった私は調子に乗って事のあるごとにその約束を話題にしました。
 中学校に上がった頃、私は病気をして入院した事がありました。無事に回復したのですが、その時に「良かったなあ。」とおばあちゃんが涙を流したのを忘れられません。いつも気丈で冗談ばかり言うおばあちゃんが泣く姿を見たのは初めてでした。それも、私のために。この人は強いだけじゃなくて、とても心が綺麗で優しいんだなと思うと、胸がジーンと熱くなって気持ちがあったかくなりました。
 ところが私が高校生になった今、毎日のように一緒だったおばあちゃんと会うのは月に数回になりました。特進クラスに入った私は、勉強を中心に忙しい高校生活を送っているからです。なのに最近おばあちゃんは、顔を合わせる度に「ちゃんと勉強してるんか。」「大学はどうするんや。」と将来の事ばかり言ってきます。少し前に、毎日必死で勉強しているのにあんまり口うるさいので、「ほっといてよもう!」と怒りたくなりました。でもそれと同時に(あれ?いつの間にか自分は、ばあちゃんより大きくなったんやろう)と思ってハッとしました。白髪になり、シワも増えたおばあちゃんの背中は丸まって、以前よりずっと小さく感じました。あんなに元気だったのに、今は膝が弱ってよたよた歩くことしかできなくなっていました。それに、おじいちゃんが亡くなって一人で暮らすようになってからは、前より笑顔が少なくなり、寂しそうに見えることが増えたように思えます。気付かない間に、強かったおばあちゃんはすっかり歳を取っていたのです。私の将来を心配ばかりするのは、いつか会えなくなるから…?大好きなおばあちゃんがいなくなるのを想像したら、急にすごく怖くなって、やりきれなくなりました。さっき腹を立てた自分を責めました。そして悩んでいる私を励ましてくれたように、今度は私がおばあちゃんの側にいて、支えてあげよう、そのためにもっと強い人間になろうと決めました。だから怒る代わりに私は、「ばあちゃん、まだまだ長生きしてな。」と言いました。そうしたらおばあちゃんは、私が小学生だったあの頃と同じ、すごく嬉しそうな笑顔を見せてくれました。
「当たり前や。約束したからな。」