第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2011年
第16回入賞作品

中学・高校生特別賞

「祖母の服」 川田 莉波(16歳 高校生)

 「ばあちゃんでも着れる、オシャレな服、絶対つくるから。」
 この約束をしたのは、私の祖母が脳梗塞で倒れた後のことだった。いつも茶色がかったサングラスをかけ、ひょう柄のシャツを着て派手な洋服が大好きだった祖母が突然左半身不随となってしまった。もうオシャレをすることはできない。よれたTシャツだけの毎日。そんな祖母を見ているのはつらかった。なんとかして、オシャレをさせてあげたい。また祖母の笑顔が見たい。そう思った時だった気がする。私がファッションデザイナーになろうと決心したのは。デザイナーは決して簡単になれるものではない。極わずかな人間にしか有名デザイナーになることはできない。しかし、デザイナーになりたいという私の気持ちは誰にも負けない。絶対に祖母にでも着れるオシャレな服をつくってやる。それが毎日の目標だ。
 祖母の日常生活を見ていると、左半身が動かないために歯や足を器用に使っている事が分かる。私が一番驚いたことは、祖母が私につくってくれたランドセルのストラップだった。ひもをのりでつけて重ねていき、右手一本だけでは作ったと思えないほどの出来だった。祖母が一生懸命に作ってくれた私へのプレゼントや日々のリハビリを見ていると、私の悩んでいたことはなんてちっぽけなものなのだろうと思えてくる。両手両足全てを使うことができるのに、自分で自分のことをやり遂げられない自分が情けなくなってくる。
 半年程前、祖母は転んで骨折してしまい、歩くことが恐怖となってしまった。せっかく一人でトイレや食卓に歩いていくことができるようになったのに、なぜまた祖母がこんなにも苦しい思いをしなくてはならないのか、悔しくて悔しくてたまらなかった。いつも自分がつらい時には祖母に助けてもらっているのに、祖母がつらいときには何もしてやれない自分を憎く思った。ただ私は、
「莉波も勉強頑張るから、ばあちゃんも歩けるように頑張って。」
としか言うことができなかった。今の高校生の自分にできることは、それくらいのことしかない。祖母への服をつくるため、行きたい大学を目指してつき進んでいくしかない。なぜ大学にいくのか。それは人間工学を学ぶためである。私は、今まで何百ものデザインを描いてきた。しかしただそれだけでは駄目なのだ。祖母が楽にオシャレな服を着るには、右手のみで腕が通るようなデザインでなければならない。このようなデザインを手掛けるためには、人間工学を学ぶことは必須となってくる。祖母が服を着る際に一番苦労するところはどこなのか。どうしたら簡単に着がえられるのか。大学に行って、研究していきたい。出来るのならば、祖母以外のオシャレをしたいのにできない障害者を笑顔にしてあげたいと思う。まだまだ道は長いけれど、絶対にあきらめたくない。祖母を笑顔にしたい。
「オシャレな服、絶対つくるから。」
あの時初めて抱いた思いを、ずっと忘れないでいたい。