第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2011年
第16回入賞作品

中学・高校生特別賞

「手紙」 山口 理伎(17歳 高校生)

 努力は報われるのだろうか。この答えは私にはわからない。しかし、努力することさえ許されない人々が世界にはいる。
 私は父の仕事でタンザニアに5年ほど住んでいたことがある。タンザニアは貧しい人も多く決して豊かな国と言えない。そのため一家の労働力として学校に通えず、働く子供も少なくない。また私はそのような友人がいた。
 彼はごみをあさり使えそうなものを売って一家の家計の足しにしていた。彼は、学校に通っておらず読み書きなどができなかった。彼は私の家の前の道で遊んでいた私の友人の中でも特に仲が良かった。
 ある日、「こんな仕事はしたくない学校に通いたい」と彼が弱音を吐いていたのを覚えている。子供の私はなんと返事をしていいのかわからなかった。いろいろな思いが胸をよぎると同時に心臓が止まり、締め付けられるような奇妙な感覚に陥った。2度と体験したくない苦しいものだった。
 彼のような教育を受けていない子供は成人した際教育を受けていないために収入の良い仕事に付けず、家計が苦しくなり自分の子供にも教育を施すことができないのだ。だが、彼には選択肢はない、そんな負のサイクルがわかっていながら、一家のために働かなくてはならない。
 帰国するときに彼からある頼みを受けた、いらない教科書をくれというものであった。私の使ったあとの教科書でもよいのであればということで私は彼に教科書を譲った。教科書を譲った際、彼は私に「絶対に字を覚えて手紙を書く」と約束してくれた。
 嬉しいことに2、3年前に彼から手紙は届いた。手紙が届いた時、だれからの手紙であるのか私にはすぐには解らず中身を読んでから彼との約束を思い出した。つたない字で何回も書き直した跡のある手紙であった。その上彼はrとvという字を逆に書いており読みやすいものとは決して言えなかった。彼の手紙には今学校にはいけていないが仕事に就けたので、お金を貯めて勉強をしたいと綴ってあった。
 私は彼の手紙が届いてから半年以上してから返事を出した。彼の手紙に対する返事が書けなかったのである。私に手紙を書く資格がないように思えてならなかったのである。
 今の私は無力で小さな存在である。彼のために何かできることなど少ないだろう。さらに言えば彼個人と私の問題ではなく彼のような貧しい存在をなくすには今の私にできることは全くない。今の私は無力だ。しかし、このままで私には何もできないとあきらめたままでいいとは思えなかった。
 今からでも多くのことを学び、貧富の差、教育格差を解決できるような人になりたいと次第に考えるようになった。何より努力することのできる世の中にしたい。私が現在教育を受けているのはそのためである、そう自分に言い聞かせている。
 私はそのようなことを手紙の返事として約束した。彼はこの手紙を読んでどのように感じるかはわからない。真剣に受け止めてくれるかもしれないがもしかするといやみなものとしてとらえてしまうかもしれないし、なんて大それたことを言っているんだと一笑に付されてしまうかもしれない。
 彼は私との約束を私が忘れても覚えてくれて実行に移してくれた。私の手紙での約束が彼にどう思われようが構わない。私は私の約束を果たしたいし、果たすためにできる努力はしたい。
 しかし、タンザニアに純粋に彼の友人として彼に会いにいきたいと考えている。昔みたいに遊びたいし、いろいろ話をしたいと考えている。だが、真っ先に彼がrとvを覚え間違えていることを教えてあげなくては。