2011年
第16回入賞作品
佳作
「胸の中で生きる約束」 早川 琴音(14歳 中校生)
私には大切な約束があります。亡くなったおばあちゃんと交わした約束です。おばあちゃんは3年前、原因も不明で治療法も見つかっていない難病にかかりました。どんどん弱っていくおばあちゃんを見て、いつも会う度に涙を流してしまいました。私はおばあちゃんにとって初めての孫だったためとてもかわいがられました。風邪を引くと仕事で忙しい母にかわって、面倒を見てくれました。おばあちゃん家に行く度に何かおもちゃを買ってくれたり、好きな食べ物をいっぱい作ってくれたり…。だけど怒る時はきちんと怒ってくれる、本当に優しくて大好きなおばあちゃんでした。妹が生まれた時は、母がずっと病院で父も夜おそくまで仕事があったため、しばらくおばあちゃん家に泊まっていました。おばあちゃん家は京都にあるため、妹を見に行く時は2人で電車に乗って行っていました。ちゃんと、はぐれないようにずっとにぎっていてくれたおばあちゃんの温かい手のひらが大好きでした。そんなおばあちゃんの病を知らせたのは、おじいちゃんから母にかかってきた一本の電話でした。家族への説明が必要だからすぐにこっちへ来てくれという電話でした。私と妹は、すごく不安になり何度も母に何があったのかたずねました。しかし母は大丈夫、としか言いませんでした。
私達に詳しい内容が話されたのはそれからしばらくした時でした。
「おばあちゃんは筋肉がおとろえていく病気にかかったの。どんどん動けなくなり、話すことも字を書く事も難しくなっていくし、ご飯も食べられなくなったり、笑う事も出来なくなるの。だからおばあちゃんが元気なうちに、たくさん会いに行ってあげようね。」
母は涙をこらえながらそう言いました。私と妹は理解ができず、ただ声を上げながら涙を流すことしか出来ませんでした。その日から私達は、兵庫と京都を行ったり来たりして何度も何度もおばあちゃんに会いに行きました。
「おばあちゃんの前で涙を流してはダメ。一番つらいのは、おばあちゃんだから。あなた達は強くありなさい。」
という母との約束を思いながらも、どんどん弱っていくおばあちゃんを見て涙を流さずにはいられませんでした。おばあちゃんが歩けるうちに、と親せきで行った旅行のとき、おばあちゃんの大好きなカニを食べました。
「おいしい。おいしい。」
と言って大好きな笑顔でカニを食べていたおばあちゃんが今もずっと忘れられません。
おばあちゃんはついに病院のベッドでねたきりになりました。天井にはおばあちゃんのふるさとの北海道の風景がはられていました。ただその写真をみつめるだけのおばあちゃんを見て歯がゆくもかわいそうでもありました。ある日の部活動中先生に、おばあちゃんが大変だそうだからすぐに帰りなさい、と言われました。何が何だかわからないまま母の車にのせられて、京都の病院にいきました。病室に入ると、そこには脈拍も少なくかなり弱ったおばあちゃんがいました。みんなで必死に名前を呼び何度も何度も体をゆすりました。すると、どんどん脈拍が普通になっていきなんとあいうえお表を使って会話が出来るようになりました。ものすごい回復でした。おばあちゃんは、あいうえお表を使って私達に、
「明日はきちんと学校に行きなさい。あと、強くて優しい、ステキな女の子になりなさい。」と言いました。私達はおばあちゃんが回復した事が嬉しく、次の日元気に学校へ行きました。しかし家に帰った私達を待っていたのは、”死の知らせ“でした。私は、あぁ。おばあちゃんは自分の弱い所を見せたくなかったんだ、と思いました。その晩おばあちゃんの眠る側から離れられずにただ一人で涙しました。
あれからしばらくした今。私はおばあちゃんとの「強くて優しいステキな人。」という約束を胸に日々、時を歩んでいます。