第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2011年
第16回入賞作品

佳作

「命がけの約束」 田中 伶奈(18歳 学生)

「先生、マラソン走りたい。」「えっ??」担当医と母が同時に驚いた。
今日は術後1ヶ月の定期検診だ。
私は0歳の時に心臓病が発見され、何度も何度も手術をした。助かった。私は、術後体重が10キロも減り2歳にも関わらず、ハイハイしたり、座ったり出来なくなった。飲んだり食べたりも出来なくなった。

でも生きてた。

それから
私と両親は毎日約束をした。
今日は座れるようになろう。
明日は飲めるようになろう。
今日無理なら明日までね。
明後日が無理ならその次の日までだ。
毎日がんばった。
生きてるからがんばれるから。
生きてるから約束できるから。

父がダンボール製の体全体を支える事の出来る私専用の椅子を作ってくれた。
母が毎日足をバタバタする運動を続けてくれた。
そんなある日座れるようになった。約束が叶った。

次の約束はなかなか難しかった。
何度も食べては吐き続ける私に、「一滴ずつでも」と何時間もかけてお茶や、離乳食を食べさせてくれた。
その度にむせたり、泣いたりする私の姿に周りの人からの両親はどう写っていただろうかー。

そしてまたその日はやってきた。
飲めるようになった。食べられるようになった。
点滴の薬なんかよりずっとおいしかった。何よりみんなと食べれて楽しかった。

毎日果たされた約束が積み重なった。
するとまた新しい約束を結んだ。
今日は走ろう、明日はバスケをしよう、明後日は泳ごう…
たくさん約束をした。
約束をする度に出来ることが増えていくのが嬉しかった。
私は約束が終わるとありがとうと言う習慣をつけた。
すると誰かがありがとうと笑ってくれた。
それが嬉しくて頑張った。
毎日ありがとうが積み重なった。

大きくなった私は友達とも約束をした。
「一緒にマラソン大会走ろうね。」夢みたいに大きな約束をした。
お母さんと先生に話したら大反対だった。長距離走は一番心臓に負担だから。
「走ってる途中に倒れるかもしれないよ」と先生に言われた。「しんどくても途中でやめれないよ」と母に言われた。
「でも走るって約束したから」と言った。
「じゃあテストをしよう。」と先生が言った。二週間後の体力検査をクリアする」と先生と約束した。
先生の出した条件は「20分間走れたら許可しよう」
私はもちろん「やる!ありがとう先生!」と言った。
それから私は夜走る練習をした。
お母さんが「私も痩せなきゃ」と付き合ってくれた。
学校では友達と鬼ごっこをした。クラスみんなで鬼ごっこしてくれた。心配性の担任の先生が鬼ごっこに付き合ってくれた。
学校の帰り道、歩くと30分かかる道を友達と競争して帰った。10分で着いた。
20分まであと半分。
初めはすぐに苦しくなった心臓もだんだ強くなった。10分は余裕になった。
けど15分の壁が厚かった。
スピードを速めても、遅くしても15分経つと耳元で心臓がバクバクなった。耳元で太鼓をドンドンと鳴らされているみたいになって、苦しくなって、胸が痛くなって、立てなくなった。
けどやっぱりその日はきた。夜のランニング中に時計を見ると、18分経っていた。明日が検査だった。
次の日私は22分間走れた。マラソンの許可が下りた。

本番がきた。先生がバンッとスタートのピストルを鳴らした。緊張のせいか、スタートして五分位なのに胸がどきどきしてきた。足がしんどくなってきた。周りの友達はどんどんゴールしていた。気がつくと私だけだった。
止まろうとした。

その時『がんばれ!!』ゴールした子たちだった。『うちもう一周走る!』終わった子たちが一緒に走ってくれた。
胸がバクバクしていた。体が熱くて重くて、けどふわふわしてた。
そしてゴールした。

「ありがとう」