第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2007年
第12回入賞作品

審査員特別賞

「努力は決して裏切らない」 河合 寿也(13歳 男性)

 2004年の夏、ぼくはとても素敵な言葉を知りました。そして、その言葉が大好きになりました。それは「マラソンは練習で走った距離を裏切らない」アテネオリンピックで金メダルを取った野口みずき選手の言葉です。

 ぼくはマラソンの苦しさを何度も経験したことがあるので、オリンピック種目の中でも特にマラソンに興味があり、アテネオリンピックの女子マラソンを一晩中見ていました。それはぼくに大きな感動を与えてくれました。アテネの強い太陽は選手たちの体力を次々と奪っていきます。そんな中で、大きな外国の選手たちに押しつぶされそうになりながらも、小さな体でスタートからゴールまでトップを走り続けて、見事金メダルに輝いた野口選手。途中ヌデレバ選手が追い上げて来てハラハラしましたが、野口選手がスタジアムに入って来た時は自分のことのように嬉しかったです。

 日本代表に一番早く選ばれていたので、ラッキーだなあとぼくは思っていましたが、野口選手のこれまでの苦労や努力を知って、これはラッキーなんかじゃなくて、努力してつかみ取った本当の勝利なのだと思いました。毎日の苛酷なトレーニングに耐えてきたその精神力が、野口選手の好きな言葉「負けない」に表れています。そして、野口選手はその後のインタビューでよく、「マラソンは練習で走った距離を裏切らない」と言っていたのが、ぼくはとても印象に残りました。

 ぼくも秋のマラソン大会に向けて練習していたので、野口選手の活躍と言葉に励まされました。どうしても6位以内に入賞したいと思い、家でも学校の休み時間でも、「マラソンは練習で走った距離を裏切らない」と言いながら一生懸命走りました。自信がつきました。本番のラストスパートで猛ダッシュして、力の限り走りました。6位でゴールしました。

 アテネオリンピックの感動と野口選手の言葉に励まされたことを伝えたくて、野口選手に手紙を出しました。そうしたら、すぐに返事が届いたのです。手紙にはこう書いてありました。「私の走りで、こんなにも希望を持ってくれるのは私にとっての財産になります。寿也くん、過去でも未来でもない現在を大切にして、何にでも挑戦してください。寿也くんのいろんな可能性は無限大です。でも、あせらずに遠くのゴールより目の前のゴールに向かってがんばれ」と。ぼくは金メダルをもらったくらい、驚きました。

 この言葉はマラソンだけではなくて、何事にも当てはまるとぼくは思います。スポーツでも勉強でも、努力した結果は形として表れますが、たとえそうならなくても必ず次へのヒントをくれます。悔しさがパワーをくれます。心が強くなります。努力が無駄になるということは決してないのです。そこでぼくも野口選手の言葉を借りて、「努力は決して裏切らない」というお気に入りの言葉を作りました。そして、何事も結果だけを見るのではなく、そこにたどり着くまでの努力こそが一番大切なのだと野口選手の金メダルが教えてくれたように、ぼくも「努力すること」を野口選手に約束したのです。

 野口選手はアテネの後、2005年のベルリンマラソンでも新記録で優勝し、2007年の東京国際女子マラソンでは北京オリンピックへの出場を確実なものにしました。こんなに忙しい野口選手なのに、ぼくの手紙には必ず返事をくれます。そこにはいつもぼくへの励ましと、自分が次の目標に向かって頑張ることを約束することが書かれています。そして、その約束は必ず実現するのです。そこが野口選手のすごいところです。才能はもちろん必要ですが、「努力は決して裏切らない」という強い信念があってこそ、その才能が発揮できるのです。しかし、たとえ裏切られたとしても決して負けない、決して努力を放棄しない、ぼくはそんな強い人間になりたいです。今年、北京でまた新たな約束が生まれるかもしれません。ぼくは今からドキドキします。