2007年
第12回入賞作品
審査員特別賞
「姉妹の約束」 三宅 美保(女性)
今から十年まえのことだった。
姉が私に
「結婚するかも。」
と。
喜ばしいことで、自分のことのようにうれしかった。親戚の少ないうちにとって、家族に祝い事は初めてのことだった。
そんな時、その頃二十歳そこそこの新入社員だった私に姉は、
「家族だからご祝儀は十万円だね。」
とさらっと当たり前のように言ってのけた。
じゅうまんえん!!!
社会人一年生の私にとって、まあ払えない金額ではないけど、紛れもなく大金だ。
六つも年下の妹の私にそんなあーーー。とか思いつつ、頑張って貯めた。
大好きなお買い物も、外食も控えて・・・ご祝儀自体初めてだった私は、そんな自分が我ながら大人になったような気がしてちょっと心地よい感じがした。
そう、大げさだけど、誇らしかった。
でも、事態は急展開したのだった。
姉が、今も忘れはしない、結納の一週間前になって突然結婚を取りやめてしまったのだった。
姉が決めたことだったし、今考えると“ずいぶん勝手なことしたなー”と思うけど、当時姉はなぜか傷ついていて、問いただす事もなく静かにその出来事は幕を閉じた。
その約5年後。
私の方が先に結婚することになった。できちゃった婚で、二十歳も年が離れていて、もちろん両親は猛反対。とにかくバタバタと結婚したのだった。
妊娠も予定外だったけど、結婚も当たり前ながら予定外だから、貯金なんて全然ない。その時あの5年前の、
“じゅうまんえん”
が、頭の中に蘇る。
『家族なら十万円。』
である。なんて素敵な響きでしょう。
言いだしっぺの姉は仕方なくテレビを買ってくれたのだった。
できちゃった婚に始まった私の予定外の人生は、止まることなく、一年後には次男を出産、その4年後には、主人の歳を考えると子供の将来を案じたけれど迷ったあげく長女を出産。(女の子でほんとに神様感謝)
その可愛い長女が1歳半になった頃、時が来た。
姉が、周りの全員がもう一生しないと確信していた結婚を決めたのでした。
その年の夏ごろ、そんな匂いがしてきて、“でもまさか”とか思っていたら、年末には籍を入れるとかいうじゃない。年明けには、結婚式だ。
その時やっぱり思い出したくないけど、忘れてなかったあの
“ジュウマンエン”
が、いやいや、だけどはっきりと脳裏に浮かぶのだった。
3人の子供がいて、家計は苦しいけれど、姉の結婚はもうないと思っていただけに、うれしい。
私のときと、同じようにテレビを買い、十年かかったけど、二人の約束は果たされたのだった。
懐は寒くなったけど、心は温かくなった。私のだけじゃなく、周りのみんなの心が。
お姉ちゃんほんとに良かったね。おめでとう。