第26回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2007年
第12回入賞作品

佳作

「命の約束」 松村 典子(40歳 女性)

 二〇〇七年三月二十六日、スリランカでテロを体験した。

 「ドオオオオオ~ン!」真夜中のコロンボ国際空港で、帰途につく便を待っていた搭乗口の近くで、ものすごい轟音が鳴った。地面が揺れた。私は、滑走路に飛行機が墜落したのだと思って、滑走路のよく見える場所に移動した。滑走路には異常はなかった。そのとき、二回目の轟音が鳴った。

 「ドオオオオオ~ン!」目の前にある、空港の大きなガラス窓が、ぐゎんぐゎんと波打ってたわんでいる。地面も地震のように揺れている。テロだと思った。ここはタミルタイガー・LTTEという自爆テロリストがいる国だとわかっていたので、危険のあるコロンボなどは観光せず、空港の待ち時間の2時間だけ滞在するようにしていた。しかし、よりによって、この日この時に私が2時間だけ滞在しているだけの空港で・・・などと考えている暇はない。ここを離れないとガラスが割れると思い振り向くと、もう既に沢山の人が走って逃げて行く姿が見えた。免税店の売り子たちは、レジのお金を袋に移して持ち、スタッフである証明の名札を服の中に隠していた。非常時のマニュアルなのかも知れない。誘導する人も何もない。みんな一目散に走って逃げている。私も続いた。さっきパスポートに出国のスタンプを押されたイミグレーションにも誰もいない。ボディチェックを受けたゲートにも誰もいない。全速力で走った。そして、空港の外に通じる最後の廊下に到着したが、そこは逃げてきた人々でごったがえしていた。狭い通路に大勢の人々の不安な顔。そこで、空港の係員らしき人が説明をした。

 「デインジェラス!テロリスト・カム!シーリアス!」非常にわかりやすい、怖ろしくて信じたくない英語が耳に入ってきた。

 「危険!テロリストが来る!深刻だ!」日本語に訳しても怖ろしさは変わらなかった。周囲は、それを聞いて泣き叫ぶ人の声で溢れた。と、そのとき、泣き声や、全ての音をかき消す機関銃の音が響いた。

 「ババババン!バババババン!・・・・」すぐそこで、マシンガンの音が響いている。今度は壁一枚もない、すぐそばで撃っている。私たちは通路でとっさに全員が床に伏せた。頭を撃たれないように中にまるめ込んで伏せた。次の瞬間にも撃ち殺されそうな緊迫の中、やがて銃撃も治まり静寂が訪れた。やがて係員が建物内に全員戻るよう指示した。空港は閉鎖された。それから10時間経ってテロリストの標的が空港に隣接している空軍基地であったことがわかった。兵士が3人犠牲になったという。今日は飛行機が飛ばないことを知らされ、航空会社が手配したコロンボ市内のホテルに移送されることになった。私はホテルでの滞在を断って、空港に残りたいと言った。一刻も早くスリランカを出たい気持ちで一杯だったからだ。そんな私に、機長が語りかけてきた。

 “I promise to let you return to Japan safely. ”

 「私はあなたを日本へ、無事に帰すことを約束します。」また、いつ飛ぶかわからない飛行機を空港で待つのは危険で、ホテルには食料もある。国際電話も通じているから、私を信じて待って下さい。必ず帰国できる飛行機を飛ばすと約束します。みんな一緒に助かりましょうと、そんなふうに言って、私と同じ機に乗る人たちを勇気付けてくれました。こんなに力強い約束をしてくれるなら信じようと思いました。全員が、命の危険を感じた極限状態だった中で機長が言った「アイ・プロミス」という言葉は、それにすがるしかない無力な私には、本当に力強く心に響きました。約束は、相手に信頼と安心を与えます。私はプロミスという言葉を耳にする度に、そのときの機長の勇ましい姿を思い出します。そして、彼は約24時間後に我々を乗せてフライトし、素晴らしい命の約束を果たしてくれました。