第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2006年
第11回入賞作品

審査員特別賞

「誕生日の約束」 田口 月奈(16歳 女性)

 私は昨年の暮れの12月27日に16歳になった。
 我が家は家族の誕生日は一応、みんなで揃ってお祝いをする習慣はあるのだが、両親とも働いているので誕生日の前後の週末にお祝いをすることが多い。だから今年も12月27日に誕生日のパーティーがないことは特別なことではなかった。
 にもかかわらず、25日の夜に母がとても深刻な顔で「本当にごめん。27日はどうしても出張で富山に行かなあかんから、帰って来れそうにないねん。」と言う。誕生日に悪いのだけれど弟の夕食も作ってやって欲しいと。
 なんだか少しがっかりしたけれど、その分誕生日のプレゼントを奮発してくれて、ケーキもオーダーで大きいのを買ってくれる。そして必ず28日に帰って来てくれると母と約束をした。
 ところが、28日に強風でJRの北陸本線が止まってしまった。夕食までには帰って来ると約束した母から、メールが着た。
 「電車が止まってしまっていつ動き出すか分からない。どうしよう?」どうしようもこうしようも動かないものは仕方がないので、「大丈夫やで。ちゃんとご飯は食べておくから。」とメールをしたが、母からの返事は「絶対に今日中に帰るから。」だった。今日中にと言っても富山から大阪までである。
 結局、3時間ほどして電車は動き出し、母は8時過ぎには帰って来たが、電車を待っていた間に、どうすれば今日中に大阪に帰れるのか、かなり考えたらしい。
 富山空港から羽田を経由して帰るか、いっそ電車が動いているところまでタクシーに乗るか。
 そのことを聞いて、私はなんだか照れくさくなって「十万円以上も払ってタクシーに乗って帰って来るくらいなら、その分お小遣いをちょうだい。」と母に言うと、母は声を上げて笑ってくれた。
 私の誕生日のために富山から必死で帰って来てくれた母の行動が、ケーキよりもプレゼントよりも嬉しかった。大した約束でもないのに、それを本当に守ってくれた母のことを私は少し誇りに思った。