第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2020年
第25回入賞作品

プロミスお客様サービスプラザ賞

先生との約束 伊藤 広輝(17歳 高校生)

 これは私が中学生の時に先生とした約束。その先生とは、中学一年生の時に社会科の教科担当で、二年三年と担任をしてくれた先生だった。
 思えば私は決していい生徒ではなかった。一時期軽く不登校で周りに迷惑をかけ、登校するようになっても度々問題を起こした。
 そんな私が変われたのは、中学三年生の時に先生が、今までのあなたではなく、これからのあなたがみたいと、言ってくれたのがきっかけだった。なんだかんだ、私自身このままではいけないという焦燥と、今更変わったところでどうにもならないという諦めが入り混じった感情の中にいたんだと思う。先生はそんな私にきっかけをくれた。
 そこからは何事にも真面目に取り組むように心がけた。別段大きな問題も起こさずに中学三年生の終わりまで過ごすことが出来た。先生には感謝してもしきれないほど、沢山支えてもらった。
 中学三年生の三学期、卒業の時期がやってきた。私は中高一貫校に通っていたので受験はなく、卒業式を待つだけだった。とは言っても、卒業式を終えたところで、大半のメンバーは入れ替わりもない。それは先生も同じだった。しかし、卒業式を終え、謝恩会も終わりに差し掛かった時に先生から私たちに想像もしていなかったことが告げられた。それは先生が病気の影響で高校進学を見届けられない、ということだった。私は愕然とした。先生からはそんな素振りもなく、そんな話は一度として聞いてこなかった。先生は泣きながら話してくれた。本当はもっと早く辞めるはずだったのに無理を言って残っていてくれたこと。高校卒業まで一緒に居れなくて、申し訳なく思っていること…。そして最後まで感謝の言葉を私たちにくれた。
 今思えば、前兆はあったように思う。何事に対しても厳しく、最後であることを強調して何事にも打ち込んでいた。体育祭、合唱コンクール、卒業式、何気ない毎日でさえも、先生の中では本当に私たちと過ごす最後だったのだろう。
 もっと早く気づけてたら。その思いは誰しもがあっただろう。特に三年間担任だった人は漠然とこのまま高校も、と考えていた人も少なからずいただろう。そう思えるほど、先生は生徒に好かれていた。そしてそれは私も例外ではなかった。
 先生が話し始めた最初は泣くつもりなんて全くなかった。最後だからこそ、笑顔を見せたいと思った。でも、最後に一人一本ずつ花を渡す時に「君がこの三年間で一番変わった。頑張ったね」と言われた瞬間に思わず涙がこぼれた。ありがとうございましたと、言うはずだった。完治したら、また会いましょうと、笑顔で終えるつもりだった。でも、無理だった。私は泣きながら、せめて最後に会う約束をしようと思って口を開いた。
「卒業したら…また、会いましょう」
 嗚咽混じりの酷いものだった。でも、先生は笑って「必ず」と返してくれた。
 その事は今でも私の心の中に息づいている。高校生になってから本当に大変なことが沢山あった。でも、先生に少しでも成長した姿で会いたいという思いから頑張ってこれた。
 あの時の約束は、あと一年と少しで果たされる。それまでに私はどれほど変われるだろうか。本当は何も変われてないのかもしれない。そうだったとしても、あと一年、私はあの時の約束を胸に止まる訳には行かないのだ。誰にも譲れない譲らない約束なのだから。