2019年
第24回入賞作品
グローバル賞
旅行 キム・ジョンヒョン(25歳 学生)
「ほう」と吹きかけてみた。息が白い。温度計を見ると零下16度を示していた。寒い。痛いほどの寒さだった。
時は20歳の冬の夜。その夜の俺は哨所で古参兵と警戒勤務をしていた。警戒地域は相変わらず平和だった。ただ、冷え冷えと風が吹くだけだった。
暇だ…
今度ははめた腕時計を見た。午前3時15分。なんだよ。たった15分しか経っていなかった。
もう堪らん。
ガタガタ震えながら、俺は退屈さを忘れるため、彼に声をかけた。
「除隊して、何をするつもりでありますか?」
うん?と彼は返事をした。そしてじっと考えてから口を開いた。
「やっぱ日本旅行かな?」
なんですかそれ、そういいながらも、一方では彼らしいと思った。彼は日本好きなので、大学で日本語を専攻している俺とは結構気が合った。今日みたいに一緒に警戒をしているとき、よく日本について話し合った。
彼が続けて言った。
「俺さ、日本好なんだけど、行ったことがないよな、日本。でも俺、日本語全然できないから…」
彼は話を止めて何か思い出したように、「そうだ」と言ってからまた話を続けた。
「あのさ、お前も日本行きたいだろう?」
はい?と首をひねった。いきなりわけが分からないことを聞かれたが、まもなく、その言葉の意味に気がついた。
彼から日本旅行に誘われたのだった。なるほど、ガイド役が必要ってことか?そして、それは正解だった。
「いや、お前も日本に行ったことないじゃん。お前も行きたいだろう?な?」
確かにその通りだった。あの時の俺は日本どころか海外に行ったこともなかった。でも、日本旅行が「除隊後のバケットリスト」の一つにあった。俺にとっても決して悪い提案じゃない。
「そうですね…」
ちょっと悩むふりをしながら、彼の顔をそろりと見た。どう見ても期待している顔だった。俺は嫌々承知するように言った。
「仕方ないですね。いいですよ、行きましょう、日本」
彼は満足そうに笑った。
ちょっと時計を見た。もう警戒勤務の時間も終わりに近づいていた。気が合う人と警戒をすると、これがいい。夢中で話し合っていると、時間が経つのも忘れる。
逆に、気が合わない人なら、3分が30分ぐらいに長く感じる。1分1分が苦しい。
しばらくして警戒の代わりが来た。
「ご苦労さまでした」
そうして警戒を交代した後、俺たちは道に沿って兵営に帰った。
「じゃ、忘れるなよ」
彼はそう言ってから部屋に入った。俺も自分の部屋に戻った。他の部隊員は皆寝ていた。ひっそり軍服を着替えて寝袋に入った。疲れたせいで今にも眠りに落ちそうだったが、寝る前に彼との約束を繰り返し考えた。
その日から数ヶ月が経った。彼はもう除隊して部隊にいない。彼との連絡も段々少なくなった。
約束のこと、もう忘れたのか?
そう思っていた時、彼から連絡が来た。
「ごめん、この間お金を工面しようとバイトをしてたんだ」
旅行に行こうとすれば、お金がかかる。だ
から、彼は工場で働いていた、そう言った。
約束を忘れたのではなかった。
俺は心の中で笑いながら言った。
「俺もさ、もうすぐ除隊するからさ…」
また、あの日のように、話に花が咲いた。