第26回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2013年
第18回入賞作品

大賞

「約束の日」 中村 百花(13歳 学生)

 私は犬が大好きです。私の祖母の家で小型犬を飼っていたこともあり、幼いころから犬と接し、犬にはとても慣れていました。母から聞いた話によると、二歳の時に近所の大型犬に抱きついていたそうです。私は幼いころから犬が好きだったというのは知っていましたが、これには自分でも驚いてしまいました。
 そんな私が犬を欲しがりだしたのは小学一年生の時でした。そのきっかけは、私の家の隣に住んでいる方がミニチュアダックスフンドを飼っていたことです。私は時々、回覧板を届けにいった時や散歩で会った時に、私はその子と追いかけっこをしたり、抱かせてもらったりしました。名前を呼ぶと一生懸命に短い足で走ってきてくれるその姿がかわいくて仕方がありませんでした。
「犬が欲しい!」
私は両親にそう言いました。しかし、そう簡単に飼ってくれるわけありません。なぜなら、妹はまだ小さいし、世話も大変です。そして何より最後のお別れが辛いからです。母に、きちんとお別れができるのか、と聞かれた私は何も言えなかったので、犬を飼うことはほとんど諦めていました。
 そんな私の願いが叶ったのは、小学五年生の秋でした。けれども、普通に飼うのではありません。「パピーホーム」というボランティアなのです。
 「パピーホーム」とは、介助犬候補の子犬を約十カ月間育てるボランティアです。同じようなボランティアで「パピーウォーカー」がありますが、それは盲導犬候補の子犬を約十カ月間育てます。この二つの大きな違いは介助犬は肢体不自由者の生活をサポート、盲導犬は目の不自由な人の歩行をサポートします。私は「パピーウォーカー」は知っていて、ずっと憧れていたので、パピーホームをすると分かった時、すごく嬉しかったです。すぐに協会の見学会に行き、説明を受けました。
 そして、待ちに待った日。私たち家族に子犬がやってきました。名前はハチ、少しこわがりな子です。ハチはなかなか行き先が決まらず、通常より大きく約四カ月で家に来ました。そして、ハチと目が合った時、パピーホームの約束「愛情たっぷりに育てる」という事を忘れず、十カ月間育てようと思いました。
 ハチが来てから私の生活は変わりました。あんなに苦手だった早起きがハチに早く会いたいという思いから苦手ではなくなりました。毎朝晩、しっかりと重さを量ってごはんを与え、散歩もできる限りついて行き、時には叱り、様々なことをしつけたり遊んだりと、充実した毎日を過ごしました。休日にはキャンプ、川、大きな公園、ホームセンターなど色々なところに連れて行きました。しかし、私は楽しすぎる毎日のあまり、約束の日が近づいていることをすっかり忘れていました。
 その日は、いつもと同じように訪れました。
「ハチ、散歩行くよ。」
「ハチ、ごはんだよ。」
いつもと同じ朝の様子なのに、これが最後だと思うと、涙があふれそうになりました。
 協会に行き、ハチとハチの兄弟の入所式が行われました。入所式の間、私は「ハチは幸せだったのか」「ハチは大丈夫か」など、そのような事ばかり考えていました。けれど、訓練士さんからパピーホームへの感謝状が渡された時、さっきまでの不安な思いは消え、
「ありがとう」
と協会の方から言われて、私はハチを育て協会に帰らせることができた、という実感がわき、心の中は嬉しい気持ちで一杯になりました。そして、訓練士さんにハチのリードを手渡した時、別れるのが辛くて泣いてしまったけれど、帰りの道は晴れ晴れとした気持ちに満たされていました。
 私は現在、三頭目の犬を預かっています。後悔しないように、ハチの時のように大切に育てようと思います。約束の日が来るまで。