第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2010年
第15回入賞作品

中学・高校生特別賞

「ASUKA」 石橋 明日香(18歳 栃木県立小山城南高等学校3年)

 「一緒に店開こうぜ。もちろん店の名前は『ASUKA』で。」夕陽でオレンジ色に染まった放課後の教室と君の笑顔は、すごくキラキラしててまぶしかった。
 「あすか」中学校の入学式が終わり、自分のクラスへと向かう廊下で名前を呼ばれた。呼ばれ馴れた名前に振り向くと、そこには友達と戯れ合い「あすか」と呼ばれる男の子。それが、彼と私の出会いだった。その日から私たちが意気投合するのに時間はかからなかった。私たちは名前が一緒なだけでなく、血液型や性格や考え方までもが自他共に認めるほどそっくりだった。そして、将来の夢さえも。だからこそ彼のことをもっと知りたいと思ったし、私のことも知ってほしいと思った。それは嬉しい事に彼も同じであった。そして、気づけば私たちには性別を越えた深い絆が生まれていた。
 二人が出会ってから月日は流れ、中学三年生になり進路に悩む時季がやってきた。私は総合学科である現在通う高校を志望した。普通科とは違い自分のやりたいことや学びたいことを中心に学習することができることに魅力を感じたからだ。また、飛鳥も同じ高校を志望していた。滑り止めの私立高校も同じ高校の同じ学科を共に受験した。第一志望である県立高校は二人とも学校推薦をもらい受験に挑んだ。結果は私だけ一足先に進学を決めた。彼は悩んだ結果、一般入試でもう一度この学校を受けることを決めた。高倍率な上に推薦入試があったため、一般入試だけを見据えて勉強していた受験生との学力差を心配した周りの意見を彼は押し切ったのだ。「高校も一緒に行こうね。」という何気ない私との約束を果たすために。あの時の悔しそうな表情と無理して作った笑顔、「絶対に合格するから待ってろ。」と言った彼の姿を私は今でも忘れられない。しかし、彼は一般入試の合格発表でも涙を呑んだ。その帰り道、「ごめん。」と呟いた彼の背中はとても小さく見えた。
 中学校卒業後、別々の進学先へ進み新しい環境でお互いに充実した日々を送った。私は生徒会に入りその活動やアルバイトに力を注いだ。飛鳥は部活に明け暮れた。忙しい毎日の中で私たちは会うことも少なくなった。しかし、たまに会えばお互いの近況を報告しあった。会うたびに私たちは「お前と一緒だったらもっと楽しかったのに」と口を揃えて言った。会う回数や連絡をとる回数はだんだん減ったが私たちの絆の深さに変わりはなかった。
 そして、高校卒業を控えた私たちは新しい第一歩を踏み出そうとしている。私はパティシエールという夢をより現実にするために製菓の専門学校への進学、飛鳥は銀座のイタリアンレストランへの就職を決めた。しかし、私は彼からの就職の内定報告を素直に喜べなかった。それは、同じ一つの夢を追う仲間からの突然の離脱宣言ともとれたからだ。私は悔しかった。高校卒業と同時に調理師免許を取得し、ミシュランガイドで二つ星を持つお店への就職を決め、夢を実現した彼へ置いていかれた気がしたからだ。怖かった。彼が私との約束を忘れてしまいそうで。しかし、彼は言ってくれた。「待ってる。お前のペースでいいから、頑張れ。一緒に店開くんだろ。」と。正直、不安だった。あの日、二人でお店を開くという約束をしてから約三年が経ち、その時の約束について触れることは滅多になかったから。それでも、私たちは同じ一つの夢を追い続けていたのだ。その時、私たちの絆を再確認した。そして、この約束は、これから先の困難を乗り越える最大の励みになるに違いない。

 飛鳥、先行く君の背中をあの日の約束と共に追いかけるよ。