第29回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2010年
第15回入賞作品

佳作

「幼馴染との約束」 佐藤 仙務(19歳 学生)

 「俺らでも仕事をして稼げるってところを証明してやろうぜ!」
 僕と幼馴染はそんな約束をした。少し頑張れば誰でも実現できそうな約束に思えるかもしれない。しかし、僕らは少し人と違う部分がある。それは体が不自由、つまりは障害者ってところだ。十万人に一人か二人の割合で発病するといわれる難病を、偶然にも僕と幼馴染は患ってしまったみたいだ。だが、ドラマや小説に出てくるような悲劇のヒーローを演じようなんて気はさらさらない。どちらかと言うと楽しい人生を送っていると言ってもいいだろう。
 そんな僕らではあるが、仕事がしたいとなると話は別だ。寝返りも自分たちで出来ないような重度障害者ゆえに会社の体制に合わせられる体力が無いのだ。
「パソコンの技術はそれなりにあるのに、なんせ障害者だもんな…」
僕らにとって最大の悩みである。だからこそ浮かんだものが、
「二人で組んで仕事をしよう」
 幼馴染へ投げかける一言。それに対して彼の答えが、
「雇ってもらえないなら俺らが会社建てようぜ!」
はっきり言って安易な考えかもしれない。決して簡単なことではない。そもそも障害者二人、ましてや、二十歳前後の青年に仕事の依頼なんて来るのだろうか。だが、障害というたった二文字の言葉を言い訳にして諦めるつもりは毛頭ない。何故なら、それこそ技術と信頼で補えると思っているからだ。そして、幼馴染には付き合い始めて二年になる恋人がいる。障害者と健常者。一見素敵なラブロマンスでも送れそうな関係だが、現実はそうもいかないらしい。相手の親からは猛反対され、ついには直接、
「稼ぎもできない能無し障害者が、うちの娘をどうやって幸せにするつもりだ!」
こんなことまで言われる始末。何が悔しいって、言われたことに関してじゃない。何も言い返すことのできない自分が、たまらなく悔しかったのだと思う。気持ちは痛いほど僕には分かる。だからこそ僕らはそんな固定概念やレッテルを自ら払いのけなければいけない。今までお世話になった人たち、応援してくれている人たちはもちろん、最初から出来ないと決めつけている人たち。病気や障害を理由に何事も諦めている人たちにも証明したい。僕らには可能性がある、未来がある。ハンディはあっても約束は守れるんだよって。
 そんな意気込みで勉強とアルバイトの両立を続ける日々が数カ月続いた。しかし、二人でやっている以上、意見が分かれる時もあれば喧嘩することだってある。大変なことばかりで挫折しそうになったことさえあった。それでも、同じ夢があるからこそ頑張れる。
「夢で終わっちゃいけねぇだろ」
 互いに原点へと戻れば、何度だって立ち上がれるのだ!
 そんな中、ある洋菓子店からホームページ制作の依頼が舞い込んできた。いきなり大きな仕事がやってきた僕らは戸惑いもあれば、不安もあった。だが、今まで僕らが挑戦しようとしてきたことは間違っていなかった。つまりは達成感、そういう思いが何十倍も勝っているのだ。だから今、二人でその仕事を全力で成し遂げようとしている。何故なら僕らにとって初となる、いや、ようやくスタートラインに立てる大きな仕事だから。ここからすべてが始まるのだ。
 さぁ、こうしている間も休んではいられない。今日も仕事は山積みだ。
「頑張ろうぜ!相棒!」
 幼馴染との気合いの掛け声とともに、僕らの約束が今、現実へと走りぬけてゆく。