第28回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2009年
第14回入賞作品

佳作

「明るい涙の約束。」 渡辺 静香(15歳 女性)

「約束だよ。」
あのときの約束を彼女は覚えているだろうか。あの日交わした約束を。
 小学校三年生ぐらいのとき、私は友達や親に誘われて障害者と交流する会に参加することになった。交流する会とは一泊二日で障害者と共に過ごすというもので、私は障害者と過ごせる貴重な体験というより、いつもと違う少し遠い場所で遊んだり泊まることができるという意味でわくわくしていた。バスに乗って一時間ほど経ち、山の中を通って建物が見えた所でバスが止まった。
「到着です。」
 そんな声が聞こえてバスを降りた。周りは木々が立っていて、空気のきれいな場所だった。季節は冬、はく息は白くなるような寒さだったが、心の中は浮き上がっていた。
「ここで過ごすのかぁ。」
 私が思っていたとき、少し離れた所から人々がやってくるのが見えた。よく見てみると車いすに乗っていたり、おんぶされていたりする私と同じぐらいの子供や大人の姿。その人達が障害者だと分かるのに時間はかからなかった。
「よろしくお願いします。」
 建物に入ってから荷物を置いて挨拶を交わした。参加者全員で泊まるのには人数が多いので何グループかに分かれてそのグループごとに建物で過ごすことになった。私のほかに同級生の女の子が一人、後は初めて顔を合わせる人たちだった。
「あー。」
 車いすに乗った一人の女の子が突然声を発し、驚いた。私より一、二才年上に見えるその子は手も足も力が入っておらず、車いすに支えられているような状態だった。隣にいる車いすの女の子はお姉さんだそうで、姉妹で同じ病気なのだと私は思った。会う前は全然平気だと思っていたのに実際に会ってみると私はその子達の姿を呆然と見ていることしかできなかった。
「あー。うー。」
 言葉にならない声を発しながらニコッと笑顔を向けられ、世話をしている女の人に、
「よろしくね。」
 と言われた私は反応に困り、
「ど、どうも。」
 こんな言葉しか出てこなかった。
 夕方になってみんなで夕食をとり、その後は他のグループの人達が全員集まって歌ったり、ゲームをして遊んだりして過ごした。私は心から楽しむことができなかった。障害者の子達が気になってしょうがなかったのだ。ご飯を一口運ぶのに何分もかかったりこぼしたり、自由に動くことができない姿を見て、なんとも言えない気持ちになった。自分と同じぐらいの年なのに、やれることは限られていて、生活も状態も全然違う。初めて見た光景は小学生の私にとってひどく重いものだった。
 その日の夜、私は同級生の子と車いすの姉妹と世話をしている女性5人と同じ部屋で寝ることになった。布団を敷き終わると車いすから降りた女の子が私の隣にきて、初めて会ったときと同じようにニコッと笑いかけてきた。私はさっきとは違って笑って接することができた。気持ちがスッと楽になった。
 最後の日の朝、私は決めていた。昨日の夜見た光景はつらいものだったけど、私は素直な気持ちで接っしようと。それが今の自分にできることだから。その後は帰るまで楽しく遊んだり、接っすることができた。そして帰る時間となり、私は驚いた。車いすの彼女が泣いていた。目から涙を流していたのだ。
「きっとまた会おうね。約束だよ。」
 私は思わず言っていた。彼女は声を発っした。約束と言っているような気がした。私は分かっていた。会うことはないに等しいと。忘れてしまうような約束、でも悲しい約束じゃない。雲一つない晴れた日の出来事だった。