2008年
第13回入賞作品
中学・高校特別賞
「奇妙な約束」 西坂 のどか(学生 女性)
私は今までに沢山の約束をしてきたが、その大半は忘れてしまった。だが今でも深く印象に残っているものがある。あれは奇妙な約束だった。
中学二年の冬、私は韓国へ修学旅行へ行った。私達は有名なお寺を観光していた。私達の他にも観光客は沢山おり、様々な目や皮膚や髪の色の人がいた。私は回りが外国人だらけという非日常な状況に興奮していたのだろう。友人と通りすがる外国人を指さし、
「外国人や、外国人や」
と言い回っていた。その時、友人が背後を振り向き
「あの人達は日本人ちゃう?」
と、言った。私も立ち止まり、振り向くと黄色のダウンコート、紫の幾何学模様のジャンバー、白のダッフルコートを着た三人組の女の子が近づいてきていた。彼女達は私達と似た顔つきをしていた。私は彼女達は私達と同い年位だと思った。彼女達と私達の距離は近づいてゆく。私と友人は彼女達の顔をじっと見た。彼女達はすぐ近くまで来ていた。そして、私が、
「外人ちゃう?」
と、言ったとたん彼女達は立ち止まり、笑顔で私達に、
「イーチーチュー」
と言った。私達は驚き、何事か、と思った。
私と友人は、「イーチーチュー」の意味について考えた。喧嘩を売って来たのか。いやそれにしては笑顔だったな。などと考えてみるが、さっぱり分からなかった。私は後ろを振りむいてみた。彼女達は私達についてきていた。やはり喧嘩を売りに来たのか。と思いながら、近くにいた先生に「イーチーチュー」の意味を尋ねてみた。先生はわからない。と、言い、不思議そうな顔をしながら、なぜそのようなことを聞くのかと私達に尋ねた。私はさっきの出来事を大まかに話した。先生はその意味を通訳に聞きに行ってくれた。通訳によると「イーチーチュー」とは「一緒に行こう」という意味の中国語らしい。そして私の「外人ちゃう?」と言ったのが、「イーチーチュー」と聞こえたのかもしれない。と先生は言った。私はありえない予想外の展開に驚いた。どうしようかと思っていると、先生が「お前らが一緒に行こうとその子達に約束したんやから、一緒に見学するべきやないか」と言った。まさか約束していたとは思わなかった。しかし、約束は守らなければいけない。
私達はビクビクしながら彼女達の方へ向かって行き、おそるおそる
「イーチーチュー」
と、言うと、
「イーチーチュー、イーチーチュー」
と先程と同じ調子で返事が来た。最初は不安でビクビクしていたが、彼女達と過ごした時間はとても楽しかった。彼女達は英語と中国語が混ざった言葉で話し、私達は英語と日本語がぐちゃぐちゃに混ざった言葉で話した。言葉は全くわからなかったが、身振り手振りで何となく会話することができた。
あっという間に別れの時は来た。私達は一緒に写真を撮った。皆、とびきりの笑顔をレンズに向けた。私は彼女達に、楽しかった、ありがとう。と、伝えたかったが、伝える術を知らなかった。黄色のダウンジャケットの子が何か言ったが、何を言っているのかさっぱり分からなかった。私達は彼女達に、バイバイと言い手を振った。彼女達も同様に手を振った。
ほんの短い間に私達は友達になった。あの奇妙な約束が、互いの名前すら知らない、言葉も伝わらない私達を友達にしてくれた。それからしばらくして、彼女達をバスの中から見た。黄、紫、白の三色はとてもよく目立った。その三色はどんどん遠くなっていき、やがて見えなくなった。