第26回 約束(プロミス)エッセー大賞

過去の受賞作品

2007年
第12回入賞作品

佳作

「手編みのマフラー」 白井 剛(28歳 男性)

 大学2年の頃、趣味は編み物だった。男ばかりの環境で育ったせいか、昔から、オンナノコらしい女の子に対する憧れが強かった。

 高校の頃は家で参考書を広げるよりケーキのレシピ本を眺めていることが多かったし、大学に入ってからは、片道2時間の通学電車の中でセーターなんぞ編む始末。

 申し遅れたが、当方、男である。ゴツい外見とのギャップのせいか、キャンパスの一部では有名人だったようだ。

 さて、そんな変わり者に弟子入りしてきた物好きがいた。Yという同じサークルに所属する女の子。好きな男の子にあげたいので、編み物を教えて欲しいという。

 女の子がオンナノコらしい趣味を持つことに大いに賛成な僕は、早速簡単なマフラーの作り方から教えてあげた。

 編み物は、1つやり方を憶えたらあとは繰り返しだ。Yは根気が続かず挫折した経験があるらしい。持っていた本を見せ、縄編みや模様編みのやり方を聞いてくる。そういうワザに走ると手間がかかって途中で投げ出すから、まずはプレーンな物を1つ作り上げた方がいい。と諭すと、不承不承頷いてくれた。「出来上がったらゴウくんにあげるね」

 とYが言う。

 「好きな人にやるんじゃないのか?」

 「だってさ、1コめは練習だもん。それは本命にはあげられないでしょ?クリスマスにプレゼントしてあげるから楽しみにしててね」

 「クリスマスって、おい。マフラー1本編むのに1ヶ月もかける気か?そんなペースじゃ本命に渡す頃には春になっちゃうぞ?」

 「いいの!完成したらちゃんと評価してよ?」

 「…まぁ、くれるっていうならもらうけど。じゃあ、オレからも何かお返ししなきゃな」

 「手編みの何かならいらないよ。絶対比べられるから」

 「わかったわかった。何か買ってやるよ」

 「うん。楽しみにしてるね!」

 しかしそれから暫くして、Yは編み方を尋ねて来なくなった。また挫折しちゃったのかな、と僕は大して気にしていなかった。

 1ヶ月後のクリスマス。サークルの忘年会の幹事のため、早めに集合場所に着いた僕を、更に早くから待っていたYが迎えた。

 「ん。」

 紙袋を手渡してくる。何だ?と訝しんで中を覗くと、完成したマフラーが入っていた。

 「あっ!」

 驚くと同時に焦った。この時までYとの約束をキレイサッパリ忘れていたのだ。

 「そうだ、お返し用意するって…。スマン!忘れてた!」

 「……ふぅん」

 Yは見るからにがっかりしていた。

 「いいけど、別に。期待してなかったし」

 「えーと、じゃあ、まぁ、とりあえず。」

 僕は財布から五千円札を取り出し、

 「毛糸代って事で。本命のも頑張れ…よ?」

 手渡そうとして、手を止めた。

 「お金……?」

 目に涙を溜めたYは、

 「え?えぇ?どうしたの?」

 「…帰る」

 俯いたまま行ってしまった。

 その後の忘年会で、事の次第を女の先輩に話した僕は、思いっきり頭を叩かれた。

 「馬鹿かあんたは!死ね!」

 Yの編んだマフラーは、教えていない筈のフリンジや縄編みを駆使した、かなり手の込んだものだった。

 「クリスマスに手編みのマフラーもらって、お返しがお金?Yちゃん、ゴウが何くれるのか、すっごく楽しみにしてたんだよ!」

 判らない所は先輩に聞いて作ったらしい。

 僕が安易に交わしてアツサリ忘れた約束をYは1ヶ月間、大切に抱えていたのだ。

 「本命が誰かくらい、最初に言っとけよ…」

 先輩に後を任せ、Yの家に走る僕だった。